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2004年7月 第16号
■最低労働基準の設定
 
欧州鉄道ネットワーク全域をカバーする労働協約の誕生

3年間におよぶ使用者側との交渉を経て、欧州運輸労連(ETF)は2つの画期的な労使協約を締結し、自由化が進む欧州鉄道ネットワークの運転士のための保護条項を勝ち取った。ETFのサビン・トライアーが報告する。

欧州鉄道の将来ビジョンは25ヵ国にまたがる単一鉄道ネットワークの形成だ。そこで多くの運行事業主を競合させる。しかし、この巨大ネットワークに欧州統一の最低基準を設定・履行させなければ、安全や労働者の労働条件はがたがたになってしまうのではないか?
幸いにも、このような心配は無用に終わった。ITFの欧州組織、欧州運輸労連(ETF)が欧州の使用者団体、ヨーロッパ鉄道連合(CER)に新ネットワークの労働条件について交渉に応じるよう、2年間かけて説得し、9ヵ月間かけて交渉を行った結果、2004年1月、新たに自由化された欧州鉄道市場の安全基準と労働条件を定める2つの画期的な労使協約が誕生したのだ。
欧州鉄道の自由化はまず、2003年3月15日に鉄道改革第1次パッケージが発効、国際貨物輸送の自由化がスタートした。現在、欧州議会が第2次パッケージを審議中、第3次パッケージは最近発表されたところだ。これら3つのパッケージは欧州単一鉄道市場の創設に向けて新たな法的枠組みを整備し、段階的に自由化をめざすものだ。技術・運行面での基準の調和は幅広く行われているが、社会的側面が完全に無視されているのが問題だ。
欧州の鉄道労組は早い段階から、改革による市場開放で雇用水準の低い国から安い労働力が流入し、ソーシャルダンピングが行われることを懸念していた。そこで、欧州レベルで自由化に抵抗すると同時に、新たに整備される法的枠組みに社会的側面を盛り込ませようと活動を開始した。
FとCETERの間で締結された2つの協約は、欧州機関士免許の導入と国際路線乗務員の最低労働条件を規定するものだ。両協約とも高い安全性の維持を目的とし、欧州共通の資格水準を定め、鉄道乗務員の安全衛生を確保し、ソーシャルダンピングを防止することを目指している。
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協約内容

欧州機関士免許

新たに導入される欧州機関士免許は、採用国の国内免許や資格を補足するもので、2ヵ国以上にまたがる国際路線に乗務する運転士に与えられる。
規則、制度、路線、車両、言語の異なる2つ以上の鉄道ネットワークに乗務する上での心身の適正や専門能力を証明する。
協約には身体および精神の適正基準が設けられている。3年ごとに健康状態を検査することも規定されている。また、付属書には運転士に求められる能力が定められている。事業主は年に1回以上、研修を実施し、運転士の知識向上に努めなければならない。
事業主は運転士の能力に関して全面的な責任を負い、欧州免許の発効・保有に関する法的責任も負う。また、運転士の実際の能力を安全当局がチェックできるように、情報システムを構築しなければ・らない。一方、外国で事件・事故が発生した場合、運転士が医療および法律面で支援を受けられるようにすること、また、事件・事故が発生した国の労働組合と接触できるようにすること、さらに、運転士が外国で問題に直面した場合に出身国の労働組合が関連情報を入手できるようにすることなども定められている。
これらの規定により、欧州免許を所持する国際運転士の高度の専門性が確保されている。
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最低労働基準

最低労働基準に関するもう1つの協約も国際路線の乗務員のみに適用され、1日および1週間の休息時間、最高運転時間、休憩時間、外国での休息条件などが定められている。
国際路線に乗務する機関士は、日勤では9時間、夜勤では8時間までしか運転してはならない。また、2週間の運転時間は80時間まで。
8時間45分以上のシフトには最低30分の休憩を入れなければならない。
1日の休息時間は最低12時間。ただし、1週間に1度だけ9時間まで短縮できる。その場合は、次の休息時間を15時間以上にしなければならない。
週休は36時間以上。しかし、国際乗務員には年間104日の休日・休暇(祝日は含まず)が保障される。また、毎年、連続60時間以上(2日+12時間)の休息期間を24回、そのうち12回を週末に保障している。
総労働時間はこの協約の管轄外で、EU労働時間指令93/104/EEC(2000/34/EC)で規定されている。この指令によると、4ヵ月ごとに算出した1週間の平均労働時間が48時間を超えてはならない。また、1ヵ月ごとに算出した1日の夜間労働時間が8時間を超えてはならない。ただし、これらの条件を上回る国内法や団体協約が存在する場合は、それらを維持する。
新協約の最も重要な条項の1つに、外国で休息をとった場合、次の休息は自宅でとらなければならないと規定するものがある。何日間も自宅を離れなくてすむという点で、この条項の意味は非常に大きい。外国での休息時間は短く、最低8時間と定められているが、これに関する補償は国、企業レベルで交渉可能。
いわゆる「引き下げ禁止(non-regression)」条項もこの2つの協約の重要なポイントだ。これはつまり、ETFが両協約を「最低」基準として受け入れることを意味し、両協約を上回る協約が既に存在する場合には、その協約が維持され、既存の労働条件が切り下げられることはない。
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実施

EC条約139条は、労使団体が欧州全域をカバーする労使協約を締結する権利を定めている。このような労使協約の実施方法は2つある。1つは、労使双方が自分たちで実施する方法。もう1つは、EU指令として実施する方法だ。
前者の場合、協約が適用されるのは、当該協約を締結した使用者団体(今回の協約はCER)の加盟企業のみ。一方、後者の場合、協約がまず欧州の法律となり、その後に国内法として整備され、その国内法が全ての鉄道事業主に適用される。CERの加盟企業であるかどうかは関係ない。
欧州機関士免許の協約に関しては、前者の方法で実施される。全事業主に協約を守らせ、ソーシャルダンピングを防ぐためには、EU指令として実施する方がよかったかのかもしれない。しかし、欧州委員会(EC)はかなり早い段階からEU指令による実施に反対の姿勢を示していた。その理由は2つある。
第一に、機関士免許の問題は労働に関する問題のみならず、鉄道運行の安全性に関する問題でもあるため、安全当局の管轄の問題を労使が法制化するのは難しいという点だ。
第二に、数年間におよぶCERとETFの交渉を経て、ECがより幅広い新たなEU指令を起草することを決めた点だ。このEU指令は国際路線の運転士だけでなく、全ての運転士を対象としている。今年3月に既に草案が発表されているが、草案にはCER/ETF協約の多くの要素が盛り込まれている。
だからといって、CER/ETF協約の必要性がなくなったわけではない。新指令に基づく運転免許は、国際輸送に関しては2010年から、国内輸送に関しては2015年からの義務化が想定されている一方、EUの最近の決定によると、国際鉄道貨物輸送は2006年1月から、国内貨物輸送は2007年1月から完全自由化されることになっている。CER/ETF協約の免許制度は2004年から開始されるため、その存在意義は依然として大きい。
CERは現在、作業部会を設立し、加盟企業の協約実施に関する実際的問題について、詰めの作業を行っている。運転士に求められる能力を特定する情報システムの構築や免許証の最終デザインの決定などがその主な内容だ。ETFは遅くとも2004年10月までには免許を交付するよう、要求している。
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協約の法制化

一方、最低労働条件に関する協約はEU指令として実施するよう、ETFとCERはECに正式に要請した。ECは通常、指令を起草する前に次の3つの条件をチェックする。1)当該協約を締結した労使団体がきちんと業界を代表しているか 2)当該協約がEUの既存の法律に矛盾しないか 3)新たに指令を制定する意味があるか。現在、このチェック作業が行われているが、ETFもCERも3つの条件に関して、何ら問題はないと考えている。
欧州議会は欧州鉄道安全指令の中で、運転時間や休息時間が安全運行にとって重要であること、欧州レベルの交渉は欧州レベルの労使団体が行うことを明確に言及することによって、ETF/CER協約を承認した。 欧州委員会がCER/ITF協約を付属文書とするEC指令を起草し、それがEU理事会で承認されると、EU加盟国はCER/ITF協約の条項を2〜3年以内に国内法として整備する義務を負うこととなる。
この過程で、同協約の一般的な条項が加盟各国の国内慣行に応じて特定の条項に生まれ変わる。もちろん、協約の条件を下回る国内法を制定することはできない。この方法の利点は、全事業者に公平な土俵を提供することができるという点だ。労働条件はもはや競争の対象ではない。事業者の質と実績を反映するものだ。
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サビン・トライアーはブリュッセルにある欧州運輸労連(ETF)の鉄道部長
交渉に学ぶ

交渉のテーブルにつくよう、CERを説得するのに2年かかったが、CERも次第に、自由化の圧力、市場開放でソーシャル・ダンピングや不公正競争が発生する危険に気付き始めた。
実際の交渉は難航を極め、合意に達するのが不可能に思えることさえあった。
欧州レベルでの交渉は国内あるいは企業レベルの交渉よりもずっと複雑だ。その理由は3つある。

1. 複数の言語で交渉すること。CERとの交渉は5ヵ国語で行われた。特に専門用語が正確に通訳されないと、多くの誤解が発生し、正しい方向に戻すために延々と議論が続くことがある。

2. 労使双方ともさまざまな国のシステム、経験、慣習を代表している。言語だけが障害ではない。交渉のスタイルも各国によって大きく異なる。ある国では普通の行動・心理が別の国の交渉担当者から見ると大きな問題に見えることもある。

3. 各国の利害を離れて妥協し、一定の基準を設定しなければならないこと。この点、8ヵ国を代表するETFの交渉団は、この難しい作業をうまくこなした。

最終的には、自分たちの業界の社会条件を欧州機関や市場にまかせるのではなく、自分たちで決定するという労使双方の決意が解決に導いたといえる。
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CER/ETF協約は鉄道労働者にとって何を意味するのか?

運転士を長時間労働から守るとともに、機関士の質の低下や、国際路線の運転士の労働条件が路面運輸産業のレベルまで悪化するのを防止する。また、乗務員が外国で1シフト終えた後は自国に帰れることも保障する。週末の休みも増え、家族や友人とより多くの時間を過ごすことができるようになる。

労働条件改善の具体例
ドイツでは、外国での最低休息時間は6時間。CER/ETF協約で休息時間が増える。
オーストリアではこれまで、年間12回の週末の休息期間は保障されていなかった。
2週間の最大運転時間80時間は路面運輸産業の90時間よりも少ない。
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INDEX
最低労働基準の設定
欧州鉄道ネットワーク全域をカバーする労働協約の誕生
急成長する航空貨物輸送
急成長する産業分野で労組が直面する課題
期待される公正な処遇
航空労働者にも歓迎される「入国を許可された人々」の新たな保護法とは?
交通運輸保安
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