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No.18/2004
■「海上でも家庭でも途方にくれて」
 
帰国が困難ですか?
船員が帰国して家族との暮らしを再開する際に、困難に出会うのは何故だろうか?
「夫は帰宅すると、すぐに家に馴染みます。でも、なぜかは解りませんが、いつまでも押し入れや引出しを開けたり閉めたりしています。私は、夫が乗船する前に配置した通りにしているのに、彼はあちらこちらをほんの少しだけ変えているようです。冷蔵庫もしょっちゅう覗いています。環境に再び馴染もうと努めているだけなのでしょうか?それとも自分自身の印をつけるために物を移動させているのでしょうか。私には分かりません」。
奇妙な行動?船員の場合には、そうではない。帰宅するたびに、船員は他人の家に入ったような気がしている。あるいは、数ヶ月の期間、自分がいなくても円滑に進行している日常生活にとって、自分は不要なのではないかなどと感じている。ある船員は次のように言った。「自分など重要な存在ではなく、自分がいなくても家族はちゃんと暮らしていけるのじゃないかといつも感じていました」。
職務上から指示命令を出すことに慣れている船舶職員は、帰宅してからも家族に対して同様の態度で臨む傾向がある。その結果、突然失業した人のように、自宅に帰っても「疎外感と断絶感」に悩まされる。ある高級船員の妻は言う。「夫は遥か遠くにいましたが、今は私のそばにいます。夫は家族がいつも一緒に居ることを望みますが、普通の夫婦はそんなことはしていません。お互いにそれぞれの仕事に出かけ、家に帰って来るのです。ところが、私たちは昼も夜も四六時中、一緒なのです」。このほど出版された英国カーディフ大学の船員国際調査センター(SIRC)の調査員ミシェル・トーマスによる調査報告書は、これまでほとんど調査されたことのない船員生活が家庭生活に与える影響を詳細に分析している。「海上でも家庭でも途方に暮れて」と題する報告書は、一家の稼ぎ手が船員である家族の「状況」を検証している。ミシェル・トーマスが行ったケーススタディは、男性が船員で、女性が家庭を守るというケースばかりであるが、この役割が逆の場合でもその影響はおそらく変わらないと、トーマスは言う。
トーマス調査員によって明らかになった現代船員の勤労生活は、ロマンチックな船員生活という一般的イメージとはかけ離れたもので、縮小された乗組み定員、短い入港期間などのために、船員は海上でも家庭でも疎外感や仲間はずれの感覚に悩んでいる。これまで、船員というライフスタイルの良い側面と考えられてきた、待ち焦がれた配偶者との再会も、異なる睡眠時間や時差の調整などのため、緊張をはらんだものとなる。
子供もまた均衡状態を変化させる存在だ。子供は家族の一員であり、親の片方にとっては、その世話に手一杯にさせられる存在だ。しかし、父親である船員が帰宅した時、子供たちは、彼を父親として認識しない傾向がある。自分のいない間に子供たちが大きな変化を遂げていることも、船員に関係の断絶を強く感じさせる要因となる。
一方で、船員ほど安定した家庭生活の支えを必要としている人間はいないとトーマス調査員は次のように語っている。「精神的支えとしての親密な配偶者や肉親への信頼感は、船員にとって特に重要なのです。それは、船員が、潜在的に社会的から極度に疎外されているからです」。休暇中の船員は、職場の仲間とは何マイルも離れていることが多い。(船内の)住居は接近しているが、就労時間は異なり休暇が重なることはない。
航海ごとに乗組員が交代するため、職場の仲間と友人になることは難しい。そのため、職場の同僚は、知人同士という間柄以上にはならない。現在でも船舶乗組員の構成には、部門や階級の壁が存在しているが、これもまた船員の孤立感のもととなっている。しかも、乗組員のこのような精神状態が、ストレス、精神的ひ弱さ、攻撃性などの誘因となり、ひいては船全体の安全や士気を脅かすことになる。
船員とその家族の生活を改善するために、トーマス調査員が確認したステップは、以下の通りである。
●定期的にかつ頻繁に連絡し合うためのプライベートEメール
●通信費の補助
●定期的な郵便(発送・受領)
●乗船期間は最長で4ヶ月
●配偶者や子供たちにより多くの乗船機会を提供する。これによって家族で過ごす時間が増し、船内生活や海上の職場に対する理解が深まる。
●船員家族と社会支援ネットワークの連携を深める。
●家族の危機に際しての即時下船(帰国)。
●海運企業と船員の配偶者の連絡強化。
●可能な限り同一の乗組員を編成する。
●乗組定員の縮小による経費削減は、船員のストレス、疲労、社会的疎外感の影響などとのバランスにおいて行われなければならない。
「海上でも家庭でも途方に暮れて」(ISBN1900174189)ミシェル・トーマス著の発行者は、船員国際調査センター(SIRC)である。連絡先は以下の通り;
Seafarers' International Research Centre,
PO Box 907, Cardiff CF10 3YP, United Kingdom.
(+44-0-29-2087-4620)
[www. sirc. cf. ac. uk].
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「待ち焦がれた恋人や配偶者との再会も、緊張をはらんだものとなる」
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「船員ほど安定した家庭生活の支えを必要としている人間はいない」
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船員とその配偶者が語る海上と家庭に分離された生活の喜びと悩み。

報告書「海上でも家庭でも途方に暮れて」より抜粋。

魅力
収入:「海が好きというわけではないが、陸で同じ程度の収入を得る職業に就くことができないので仕方がない」。
利点と人間関係:「毎日決まりきったことの繰り返しはしたくない。お互いのしたことを当然とは思わずに、お互いに感謝し合う。自分の時間を大切にする」。
休暇:「彼が一ヶ月の休暇で家に居るときは、世間の父親とは違って充実した時間を子供たちと過ごしている。彼は放課後に子供たちと泳ぎに行ったり自転車で出かけたりしている。このようなことは9時から5時までの勤務では不可能である」。
仕事のやりがい:「もし私が陸上の職場で同じ程度の賃金を得ることができたとしても、あまりに単調な仕事であるならば、幸せとは感じません。狭い場所で仕事に縛られるとか、同じ部屋や工場に閉じこもって単調な仕事を長時間続けることは、私にはできません」。

船から陸への移動
二つの世界、二つの生活:「私はいつも二つの人生を生きていると感じています。自宅に帰ったときは、昔から家で暮らしていたように思います。そして船に戻ったときは、すぐに昔から船で暮らしていたような気分になります。二つの生活は、比較の対象にはなりません」。
家庭に帰る喜び:「私にとって帰宅することは,クリスマスのような出来事です」。
くつろぎ:「彼が仕事の緊張感から本当に解放されるには、いつも一週間はかかります。機嫌が良かったり、悪かったりの一週間のあとは、いつもの彼に戻ります」。
睡眠:朝までぐっすり眠れたことはありません。夜中に必ず目がさめます。小さな船での生活に慣れると、エンジン音のわずかな変調などを含めて、あらゆる騒音が聞こえます。そして、わずかな物音にも目がさめてしまうのです。赤ん坊が目覚めた物音には、妻より私のほうが遥かに早く気づきます」。
家庭は船ではない:「彼は船と乗組員を指揮しているので、家に帰っても同じ反応を求めます。でも家では、イエス・サー、ノー・サーと言うわけにはいきません。そこで問題が起きます」。
乗船:「子供たちが幼かった頃は、彼はタクシーを雇って空港へ向かいました。私が運転して空港へ送って行くのは、トラウマのもとになったからです。タクシーを利用すれば、『さよなら』と言うだけで済みます。彼は買い物に出かけるのと同じように船に向かいました」。

コミュニケーション
おしゃべり:「誰かと言葉を交わすと気分がとても楽になります。世界中からのクリスマスカードを受け取っても、それは人と人とのふれあいではありません。相手との距離が離れていれば、(手紙では)ある程度以上に近づくことはできません」。
Eメール:「Eメールを通じて、私は彼女と常に接触を保っています。離れていますが、ある意味では離れていないとも言えます」。
問題:「Eメールは、素晴らしい道具ですが、Eメールがあるということは、私が家のもろもろの問題について四六時中考えなければならないということを意味します。この場合には、スイッチを切ってしまうことはできません」。

社会からの孤立
乗船中:「乗組員の仲間のことを知ってはいるのですが、本当の意味で理解し合っているとは思えません」。
帰省中:「友人はたくさんいます。でも、船員生活では、今日は家にいても、明日は海に居るかもしれません。家にいつも居るというわけではないのです」。
配偶者との絆の強さ:「妻はあらゆることについて知っています。私は妻にどんなことでも話すことができます。電話代がかさむのは、これが原因です」。

子供たち
子供たちと配偶者:「淋しくなることがありますが、子供たちと居ると楽しいので,寂しさを忘れます」。「育児は、大変な仕事です。彼は一ヶ月ほど家を離れたのち、二週間ほど帰省しました。小さな赤ん坊との二週間で、彼はくたくたに疲れていました」。
子供たちと船員:「まだ幼い子供たちと6ヶ月も別れなければならない時は、身も心も裂かれるような思いがしました。死ぬような心地でした」。
子供たちへの心理的影響:「私たちは子供たちに『父親は一定の期間仕事のために行かなければならないのだ』と言い聞かせました。誕生日のプレゼントやケーキを買いに出かけるのではなく、家のローンやガス代などを支払うために働かねばならないことを説明しました。そうしないと子供たちは、自分たちのせいで父親が家を出て行くのではないかと考えてしまいます」。

役割の変化
自立した主婦:「船員の妻は、自信と能力をそなえた女性でなければなりません。何かにつけて何をすべきか、どのようにすれば良いかを聞かなければならない女性は、船員の妻には向いていません」。
家庭を取り仕切る:「私が適応しなければならないということを、彼は理解しなければなりません。だから、帰宅したときは私たちの家庭に彼が適応しなくてはなりません。私たちは別々の生活を送るわけには行かないのです」。
変化に合わせる:誰が何をするのかについて、二人は常に話し合わなければなりません。時には、一寸した口論になることもあります。毎晩家庭で過ごす人々には、それぞれの役割が決まっています。私たちには、それぞれの役割分担がわからないので当惑することがしばしばです」。

健康と性
断続的な別居―船員の見方:「現代においては、個人の性的履歴など誰にも分かりません。一晩かぎりの乱行によって、幸福で安定した関係を破滅させる価値があるかどうかをよく考えるべきです」。
配偶者の見方:「一人寝のベッドで、キスや抱擁、性的な交渉など、夫と過ごした夜を思い出して、さみしくなります」。
健康全般について:「私がベッドでいつまでも眠っていれば,子供たちに紅茶をいれたりしてくれる人はいません。子供たちはおなかをすかせてまっているのです」。「航空機に乗り込んだときから、船に足を踏み入れるまで、私はストレスを感じつづけています。本当に気分が悪いときもありました」。

幸福な二人
信頼:「彼の言うことを彼女は信じなければなりません。彼には責任がないのです。二人の間の信頼と一体性が重要なのです」。
意思疎通:「私たちは殆ど毎日のように電話またはEメールで連絡し合っています。以前のように遠く離れているという感覚はありません」。
助け合いネットワーク:近所に親戚の家族らが住んでいますが、助けが必要なときに役立ちます」。
仕事:「気持ちに張りを持たせるために、忙しく仕事に励んでいます。素晴らしい友人たちと家族のおかげで、私は元気にしています」。
働く配偶者:「私は彼が家を離れている間は、外出を控えるようにしています。でも、退屈しないように、夜間当直勤務や夜勤ボランティアなどをしています」。
過去の経験:「私の父と二人の兄弟は、船乗りをしていました。船乗り家庭のライフスタイルに馴染んでいたので、船員との結婚がどのようなものかは分かっていました」。
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