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グローバルユニオン
No.23/2009
■海上の殺人
 
海上の殺人

ビルマ漁船員に対する衝撃的な残虐行為についてのデビッド・ブラウンの報告

飛行機から見えるテュアル島の景色は、のどかなものだった。バンダ海の東の果てにあるその島は、白く輝く砂浜とヤシの林に縁取られて紺碧の海に浮かんでいた。しかし、逃げ場のない数百人のビルマ漁船員にとって、テュアル島は事実上の刑務所となっていた。
このほど島を訪れたITF代表団の調査結果によれば、インドネシアの首都ジャカルタの東約3000キロに位置するテュアル島とその周辺の島々には、雇い主のもとから脱走し、正式の査証や書類を所持していないビルマ漁船員が、約700人から1200人いるとみられる。
彼らは公海上での殺人行為や過酷な労働条件から逃れ、インドネシア国内の比較的安全な場所を見い出したわけだが、いつ当局に逮捕され、タイあるいは母国ビルマの軍事独裁政権のもとに強制送還されるのか、常に怯えながら暮らさなければならない。
ソー・ミンと仲間のセイン・ウィンナも、そのような遺棄船員だ。彼らは島内の森林地帯で、狩猟採集や農業を営むことで不安定な生活を支えていた。ほとんど人に知られていない孤島のテュアル島は、軍事政権の支配する祖国ビルマから数千キロ離れてはいるが、彼らにとって、決して楽園ではなかった。
「この島に留まっているのは、他に行き場がないからだ。外国に住みたいわけではない。みんな故郷に帰りたいと思っている」とウインナは言う。
「この島にいるビルマ人は、問題をたくさん抱えている」とミンは言う。「些細な問題ではなく、大きな問題だ。皆が故郷のビルマを懐かしく思い、悩み苦しんでいる。何人もの仲間が神経衰弱になり、笑ったかと思うと泣き出すといった様子を目の当たりにしてきた。そういう精神状態に追い込まれているのだ」
漁船に残って死を待つか、テュアル島に入港した機会に脱船するか、不毛の選択しかなかった、とソー・ミンは語る。その後、ミンは、島で出会った女性ポピとの結婚によって、遺棄された漁船員たちのリーダーとなった。ポピは、近くの村に小さな家を持っていた。
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海上の暴力行為

私たちは、森の隠れ家に潜むミンと、他の8名のビルマ人移民漁船員のグループに出会った。33歳で中背、がっしりとした体格のミンは、無実の村人を殺せと命令されたため、ビルマの軍隊から脱走し、祖国を捨てた。
「村に入れば決まって戦いや撃ち合いが始まった。司令官から村人全員を殺して村を焼き払えと命令された。兵士は司令官の命令に従う他なかった。村人の中には状況をまるで分かっていない15歳の少年などもいたが、私たちは彼らを皆殺しにした」とミンは言う。
海では、タイの漁船で不法労働した。身分証明書も偽造し、賃金をもらえるという口約束だけを当てに、ミンは逃げてきた軍隊の世界と同じくらい残忍な世界に飛び込んだ。
海上で殺された友人について、ミンが話してくれた。「タイを出港して以来、友人は激しい船酔いに悩まされていた。漁師の仕事に慣れていなかったからだ。彼は船長から嫌われていた。友人はタイ語が全く話せず、船長の言っていることが全く理解できなかった」とミンは言う。
「甲板まで波が上がってきたため、釣ったイカがバスケットからこぼれてしまった。船長は友人にバスケットからこぼれたイカを拾うように命じたが、彼には通じなかった。そのうちにイカが波にさらわれてしまった」
「船長は友人に近づき、パイプで殴った。一撃目を手で受け止めた友人の手は折れ、2撃目は彼の肩甲骨を打ち砕いた。船長は続けて友人の頭の後ろを殴り、彼は甲板にうずくまった。近くには、他のタイ人もいた。船長はパイプを放り投げ、手についた血を洗い流し、操舵室に戻って行った。乗組員に友人を海に放り投げるよう命令したが、私たちには彼がまだ生きているのが分かった」
「船長は、操舵室に戻るとメガホンを手に取り、乗組員全員に警告した。『何を見ているんだ。仕事に戻れ!奴みたいになりたくなきゃ、ちゃんとやれ!』と叫んだ」
「他にもタイ人の船長が恐ろしい殺人を犯す現場をみたことがある」とミンは言う。
「ある乗組員が船側越しに排便をしていた。別の乗組員が船長にこのことを告げ口すると、船長がやって来て辺りを見回し、落ちていたパイプを拾い上げ、この乗組員を殴った。船長がどこを殴ったのかは見えなかったが、殴られた船員はそのまま海に落ちてしまった」
「この事件の後、忙しい時は誰もが排泄するのを恐れるようになり、仕事中にズボンの中に排泄する船員が増えた」とミンは言う。
45歳で独身のセイン・ウィンナは、テュアル島で孤独な生活を送っている。ウィンナはチン族の出身だが、チン族は第2次世界大戦中に連合軍とともに日本軍と戦ったジャングルの闘士として伝えられる。ウィンナは森に隠れ、定期的に警察や移民局が実施する捜査を逃れてきた。
「ビルマ人の船乗りは、まるで犬や豚のように死んでいく。私自身は兄弟に奴隷として売られ、次から次へと売り渡された。最後はバンコク近くのマハチャイの水産会社に売り渡された」とウィンナは言う。
「漁船に乗り組んでいた時、目の前でタイ人のコックが鉄の棒でビルマ人船員を殴ったことがあった。船長はこの船員が生きているのか、死んでいるのか聞いてきたので、私は『まだ死んでいませんが、もう放っておいて下さい。私が面倒を見ますから』と言った。私はその若い船員を抱き抱えたが、彼は一時間後に息絶えた」
「ビルマには帰れない。連絡を取る相手もいないし、いたとしてもお金がない。ビルマに帰っても様々な困難があるため、ビルマに帰ることもできない」
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ビルマ人の国外脱出

テュアル島に遺棄されているビルマ人漁船員たちは、60年も続いているビルマの内戦と1960年代から権力の座にある暴力的な軍事政権から脱出した300万人以上の国外離散ビルマ人の一部をなす。ITFの推計によれば、タイに数10億ドルの外貨をもたらす輸出向け水産加工産業で働く女性労働者を含むビルマ人漁船関係労働者は25万人を超える。しかし、法律上登録されているビルマ人労働者は、7万人にすぎない。
セイン・ウィンナのような大多数の労働者は、管理の手薄なタイ−ビルマ間の国境を越えて連れて来られ、タイ水産業のマフィアの間で取引きされている。
タイ船籍の漁船に送り込まれたビルマ人労働者は、タイの偽造書類を与えられ、月給50ドルの賃金で、1日14〜20時間におよぶ過酷な船内労働に従事させられる。契約満了ボーナスとして約9000ドル受け取ることのできる幸運な者もいるが、そのためには3年から5年のあいだ海上で就労しなければならない。
バンコクを活動の拠点とするITF加盟組織の亡命ビルマ船員組合のアウン・トゥ・ヤ委員長が、我々のテュアル島訪問に同行した。
「タイ人の船長らは、ビルマ人乗組員に対する非人道的な虐待行為という罪を犯している。この残酷行為は、乗組員個人に向けられているだけではなく、ビルマ人全体に対するものだ」とアウン・トゥ・ヤ委員長は語る。
「わが国の現在の経済状況は、タイに比較して大幅に貧しく、大きな格差がある。こうした原因から、ビルマ国民は軽蔑され、搾取されている。タイ人はビルマ人漁船員を不当かつ非人道的に処遇している。タイ人はビルマ船員に極度の苦しみを与えているが、彼らの富と繁栄はビルマ人によって生み出されているのだ」
ITF加盟組織のインドネシア船員組合(KPI)は、テュアル島に遺棄されたビルマ人船員の窮状の調査に乗り出した。
テュアル島を担当するKPI役員のパサル・メリは、次のように語った。「この問題の推移をモニターするために、KPIは懸命の努力をしている。我々は地域の港長から関連するデータや情報を収集するとともに、入国管理局、漁船船主、船員雇用者などに連絡し、海上における脅迫、暴力行為、その他の犯罪行為を止めるよう通告した。彼らも我々と同じ船員なのだ」
「これが犯罪であることは明らかだ。いかなる人間も他人の命を奪うことはできない。船長は、船員も同じ人間であることを忘れてはならない。人間は共に生きなければならず、人を殺すのは違法行為だ。インドネシアの法律も国際法も同じはずだ」
インドネシア当局も徐々にではあるが、タイ船籍の漁船で就労するビルマ人漁業労働者に対する虐待や暴力行為について行動を起こし始めている。テュアル島の入国管理事務所のジョハネス・サイジャ所長は、ITFに次のように述べた。「当初、ビルマ人、カンボジア人、インド人、タイ人など全員が、タイ国籍の書類を所持していた」
「しかし、漁船内で上司から暴力を受けた船員たちが、船に戻りたくないと言い出し、テュアル島で下船し、これが島内で問題になり、島民がビルマ人船員のことを入管に報告してきたため、彼らを逮捕し、国外に退去させることとなった」
「彼らのことは気の毒に思っている。森に住んでいる者もいるが、村人と共に生活している者もいる。食料を手に入れるのも難しいため、入管事務所が彼らを保護し、母国に送還したほうがよいのではないかと思っている」とインドネシア当局は言う。
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入管事務所の拘置所

テュアル島入国管理事務所の建物は堂々と立派だが、不法入国者を留置するための人材と資金は極めて僅かで、一時拘留できるのは最大でも12人程度にすぎない。しかも皮肉なことに、船員の本国送還に際しては、テュアル島入管事務所は予算がないため、タイ漁船の上司の親切心と好意(怪しいものだが)に全面的に依存している。これではまさに、報復の悪循環である。
テュアル島入管の留置所で面会したフィー・マウン・マウン(24歳)は、テュアル島で漁船から脱走し、逮捕されるまでの約4か月間、島内に隠れていたと語った。
「タイの漁船で送還されることになっている。これから船上でどんな目に遭わされるのか、想像もできない」とマウン・マウンは言う。
マウン・マウンとともに留置されているビルマ漁船員のコ・ヤシャは、現地で結婚した妻とまだ幼い2人の娘たちとの別離を予期し、明らかに混乱し、取り乱した様子だった。
「娘の一人は2歳で、もう一人はやっと1歳になったばかりだ。子供たちを学校に行かせなければならないが、妻には仕事がない。私が唯一の稼ぎ手だ」と、ヤシャは懸命に訴えた。「2人の娘のために私は非常に辛い思いをしている。また逮捕されることがないのなら、テュアル島に帰って来たいと思っているが、航海中に殴られるのか、蹴られるのか、殺されるのか、どのような目に遭わされるのか、全く分からない。無事に帰国できたら幸運だろう」
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●デビッド・ブラウンは、調査ルポ専門のフリーランス記者。
ビルマ国内の状況は

ビルマは数十年間にわたって軍事政権の支配下にある。この政権は、人権および労働組合権に対する侵害に関して、世界最悪の政権の一つだ。ビルマでは、強制労働が行われているだけではなく、基本的人権や労働組合権に対する大規模な侵害が行われており、結社の自由や民主主義も認められていない。(出典:ITUC)

移民労働者が被害を受けやすい理由は?
以上の理由から、多数のビルマ漁船員はタイで就労している。これらの移民労働者は、(自国政府の保護を受けられないために)極めて弱い立場にあり、悪質な雇用斡旋業者や雇用主、腐敗した地方警察官などによる搾取、恐喝、暴力行為の餌食となりやすい。多くの労働者は最低賃金も得られず、雇い主のお情けにすがるしかないのが実情だ。

ビルマ漁船員に対するITFの支援活動は?
2007年4月、ITF水産部会で、インドネシア領海で操業するタイ漁船のビルマ人乗組員39人が惨殺された事件に関して、決議が採択された。ITF水産部会はインドネシア政府に対し、同国海域における目に余る人権侵害の防止策を講じるよう要求するとともに、タイの関係当局に対し、外国人乗組員に関する残酷・非情な搾取・暴行に関与したタイ国民に適切な制裁措置を講じるよう要求した。
ITFは2008年からFES財団(ドイツ)の資金援助を得て、極東アジア地域の組織化プロジェクトを発足させた。このプロジェクトは、フィリピン、インドネシアおよびタイ籍の漁船に雇用されているビルマ人乗組員に重点を置き、これらの地域の漁船員の労働条件や生活環境の改善を目標としている。
ITF水産部会とその加盟組織は、この種の問題の解決を求めて、国際社会の説得に努めている。また、ITF船員トラストや関連組織と共に、ビルマ漁船員らを支援するプロジェクトを立ち上げようとしている。
ITFアジア太平洋地域組織もここ数年間、ビルマ人移民労働者の労働条件・生活環境の向上を目指して、数々の活動を実施している。
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