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2005年10〜12月 第21号
■ロンドン同時テロ
 
使命感に燃える地下鉄・バス労働者

バス運転手から見た事件の様子をアンドルー・ドジソンが報告する。

7月7日は静かに始まった。朝、テムズリンクラインとギルフォードラインで遅れが出ていたほか、ロンドン地下鉄のノーザンラインでもトラブルが発生していた。ロンドンではこのようなことは何ら珍しいことではないので、通勤客は一瞬、肩をすくめた後、新聞やクロスワードパズルに目を戻した。この時点で動揺している人はほとんどいなかった。
しかし9時頃になると、何かが起きたことがはっきりしてきた。キングクロス、エッジウェアロード、アルドゲート、リバプールストリート、ラッセルスクウェア周辺に人だかりができ、パトカー、救急車、消防車のサイレンが一斉に鳴り響いていた。報道番組は地下鉄で電圧が急変したことを報じていたが、その原因については、どの番組のコメンテーターも首をかしげるばかりだった。ある目撃者は「地下鉄の駅から真っ黒な顔をした人たち出てきて、大きな爆発音がしたことや地下がパニック状態に陥っていたことを話していた」と語った。番組のキャスターは「電圧の変化でこんなことが起こるのだろうか?」と疑問を投げかけていたが、この疑問に答えられる人は誰もいなかった。
9時半頃には、騒然とする現場に救急隊が駆けつける様子が報道されていた。地下鉄で何かが起きたことが徐々に明るみになっていった。警察や交通政策関係者は厳戒態勢の中で緊急事態と格闘していた。間もなく全地下鉄に最上級の緊急警戒態勢を示す「コード・アンバー(琥珀色コード)」が発せられ、20万人以上が避難を命じられた。
地下でいったい何が起きているのかは誰にも分からなかった。しかし、何か大きな事が起こったということは明らかだった。
ステージコーチ(ロンドンのバス会社)のバス運転手、ジョージ・サラダキスはハックニー・ウィックからマーブル・アーチへの30番バスを運転していた。ユーストンロードが非常に混雑していたため、ルートを変更して運行していた。
地下鉄が閉鎖され、交通手段を失った人たちがジョージのバスに次々と乗り込んできた。満員のため乗車をあきらめる人もいた。他の乗客の背中を押し分け、無理やり乗り込もうとしたが、結局乗れずに歩き出す人もいた。9時45分過ぎにジョージのバスはウォバーン・スクエアとタヴィストック・プレイスの接続点付近にいた。ここは30番バスのルートからははずれた場所だ。ジョージがバスを止めて場所を確認していたという目撃証言もある。その後、大きな爆発音が鳴り響いた。ジョージは後日、会社を通じて次のように語っている。「地下鉄から何千人もの人が出てきて、道路が異常に混んでいたので、バスを迂回させることにした。私のバスにも大勢の人が乗り込んできた。そしたら突然、大きな爆発音が聞こえ、その後はもう大虐殺のようだった。すべてが自分の後ろで起きたようだ」
事件直後の写真には、ショックのあまりバスの横で佇むジョージの姿が写されている。このような状況に直面した場合、あなたならどうするだろうか?何が頭に浮かぶだろうか?ジョージの場合、真っ先に頭に浮かんだのは乗客のことだった。「まず、身体の弱い人を助けようとした」と彼は言う。「大勢の人が負傷していた。最初は、周りの人が死んでいく中で、どうして自分は助かったんだろうと不思議に思った。その後、駆け付けた警察官に、まだ爆発物が残っているかもしれないからと、バスから引き離された」と彼は続けた。これで、地下鉄で実際に何が起きたのかが明らかになった。現場には医者や救急隊がやって来た。
昼までには、この大惨事が一連の爆破によって引き起こされ、数十人が犠牲となり、数百人が負傷したことが分かった。この時点ではまだ自爆テロによる犯行だという証拠はなかったが、そのうわさは既に広まっていた。
しかし、ロンドンのバス運転手にとって、これはまだ始まりに過ぎなかった。地下鉄の運行が全て停止されると、何万人もの通勤客がバスに流れたため、バスが大量の乗客を輸送しなければならなかった。事件直後、負傷した歩行者を病院に搬送するために自分のバスを使った運転手もいた。運輸一般労組(TGWU)のトニー・ウッドリー書記長は組合員のこのような直感的な行動を褒め称え、次のように語った。「誰も強制されたわけではない。運転手が自ら進んで、本能的に行動したまでだ」
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有事の勇気

夕方には原因が爆弾であったことが判明した。数日後には誰もが恐れていたこと−自爆テロによる犯行−が確認された。地下鉄の現場付近にいた生存者の証言によると、犯人は爆破直前に叫び声を上げ、恐怖におののいた乗客の悲鳴やうめき声が聞こえたという。煙が充満する真っ暗な車両の中には、既に息絶えてしまった人、傷だらけの人、無傷だった人が皆いっしょに閉じ込められていた。事件直後に救急隊や交通労働者が果たした役割は多くの政治家に賞賛された。
ジョージは他の多くの通勤客や交通労働者と同じように次のように語った。「多くのロンドン市民がテロにもかかわらず、バスを利用してくれてうれしい。私には重要な仕事がある。これからも全力でその仕事を続けていくだけだ。われわれはこれまで通りの生活を続ける。決してテロには屈しない」  この他にも、勇敢なバス運転手の話が多数、TGWUに報告されている。ストックウェルに住む、あるイスラム系運転手は、いつもの通勤経路ではシェパーズブッシュの職場に到達することができなかったため、歩いて出勤した。また、ニューヨークで同時多発テロを経験したある女性運転手は、「テロリストに負けてたまるか」と、翌7月8日の運行再開第一号のバスの乗務を申し出た。ストラットフォードのジョージの職場の職場委員は、同僚や乗客の不安を取り除くために、あえて運行再開後の初めての30番バスに乗務した。
ステージコーチロンドンのバリー・アーノルド社長は「わが社の運転手はプロ中のプロだ。テロ発生以降、彼らはすばらしい仕事ぶりを見せてくれた」と語った。
バス運転手らがテロの悲劇を再び痛感させられたのは、ジョージのバスに乗っていたシャハラ・イスラムの死亡が確認された時だった。彼女の父、シャムスル・イスラムもステージコーチの運転手だった。1週間後にストラットフォードの車庫で開かれた彼女の追悼式には、TGWUのエディー・マクデルモット地域部長やステージコーチロンドンのアーノルド社長も出席した。追悼式でジョージは「シャハラに深く敬意を表するとともに、爆破テロの犯人およびその指導者を強く非難する」と述べ、シャハラに黙祷を捧げた。
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明日に向かって

ロンドンのバス運転手は重大な危険を感じる時には乗務を拒否することができる。その場合は、減給なしに車庫などの他の業務に配置される。運転手に不安な気持ちがないなどとは誰も言っていない。ただ、TGWUのパット・ドクルス職場代表がトラファルガースクエアの集会で語ったように、「われわれバスの運転手、整備士、車庫スタッフ、会社は、ロンドンの日常を継続させるために、われわれの仕事を続けるだけだ」と多くの運転手は感じていた。
7月7日の悪夢は2週間後の21日に再来したかに思われた。この2度目の同時テロでは、地下鉄3駅のほか、ウォータールーからハックニーに向かう26番バスが標的となったが、幸いにも犠牲者は出なかった。リュックサックにしかけられた爆弾は7月7日の時ほど大規模な爆発には至らなかった。被害にあった23番バスの運転手、マーク・メイバンクスは爆発後、迅速に乗客を避難させた。マークは後日発表された声明の中で、「乗客全員を無事に非難させることができてとてもうれしい。乗客の安全確保が私の最優先課題だった。ただ、やらなければならないと思ったことをやっただけだ」と語った。
一方、TGWUのマクデルモット地域部長は次のように語った。「バスの運転手が重要な役割を果たしたことは間違いない。しかしこれだけで満足してはならない。運行に携わるスタッフ全員の間にしっかりとしたコミュニケーション体制を確立するとともに、運転手が警察から積極的にアドバイスを受けられるようにしたり、車内に警官を配備したり、緊急時のルート変更を指導するルート監督者の訓練を強化したりするなどの対策が必要だ。ロンドン市民はバス運転手を誇りに思っていい。今、求められているのは、バス会社や業界が組合や警察と一体となって、乗務員や乗客の安全を守るために万全をつくすことだ」
ロンドンの交通運輸労組は、コミュニケーション・システムの改善・強化など、公共交通の保安対策をロンドン市長に要請している。
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アンドルー・ドジソンは、ロンドンのバス労働者の大半を組織するTGWUの報道担当部長
RMT過度の危険を伴う仕事を拒否する権利を要求

7月7日と21日の同時爆破テロ後、ロンドン地下鉄の運転士を組織する鉄道海運労組(RMT)は地下鉄の保安対策要求を強化した。本稿執筆時点で、RMT指導部はケン・リビングストンロンドン市長との話し合いにおいて重要問題で進展があったことを報告している。以下はボブ・クローRMT書記長声明からの抜粋。

ロンドン市長からロンドン地下鉄の総人員数は減らさないという約束を得た。人員の問題はここ数ヶ月間、ロンドン地下鉄(LUL)経営陣と折り合いがつかなかった重要問題の1つだ。
また市長は、1987年のキングズクロス駅火災事故後、1989年に導入された地下鉄駅構内消防規制を緩和させようとする政府の動きに関して、たとえ規制緩和が実施されたとしてもLULが人員削減や防火対策の軽減は行わないことを約束した。
RMTは引続き1989年規制のいかなる緩和にも反対していく。この点に関し、ロンドン市長とさらに話し合いを持ち、市長の支持を取り付けたい。
さらに、無線設備のない車両の運行禁止や怪しい手荷物の検査方法の見直しについても合意に達した。
今後、第一線の現場職員への呼吸具の支給や、乗客の安全を損なわないことが確認された場合の運転室の強化などについて、詳しい話し合いがもたれることになっている。
RMT執行部は、以上の問題に関しては十分な進展が得られたとして、組合員投票は行わないことを確認した。
同時に、組合員は過度に危険な業務を拒否できる権利を持つことをLUL、メトロネット、チューブラインズに通告するとともに、業務拒否によって懲戒処分が下された場合は全地下鉄組合員による組合投票に入ることを許可した。
一方、車掌の問題に関しては合意に至らなかった。市長は車掌ではなく武装警官の配置を主張している。
RMTは武装警官の配置と安全運行の問題は別であり、安全訓練を受けた車掌は重大事故の発生時に重要な役割を果たすとしている。
よって、われわれは全バスへの車掌配置と同時に全地下鉄の車掌配置も引続き要求していく。
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「あのような悲惨な事故現場に真っ先に飛び込んでいったのは地下鉄の従業員だ。彼らは冷静かつ迅速に乗客を避難させ、多くの命を救った。そして、ほとんどの地下鉄の運行を24時間以内に復旧させるという奇跡をやってのけたのだ」

ケン・リビングストン・ロンドン市長

できるだけ周りの人と言葉を交わしあい、動揺を抑えようとした。そして聞こえてきた運転手の声に耳を傾けた。
辺りは真っ暗闇だった。車両の中は息苦しい煙で充満していた。一瞬、目が見えなくなったのか思った。何一つ見えるものはなかった。このまま死んでしまうのか、あるいはもう死んでしまったのではないかとさえ思った。煙で息がつまる。まるで水に溺れているような感じだった。
まもなく割られた窓ガラスから空気が入ってくると同時に、非常灯の明かりでほんの少しだけ視界が開けた。大丈夫だったんだということを確認できた。次の瞬間、恐怖におののく乗客の叫び声が沈黙を破った。できるだけ周りの人と言葉を交わしあい、動揺を抑えようとした。そして聞こえてきた運転手の声に耳を傾けた。他の人の叫び声やうめき声はまだ聞こえていたが、できるだけ落ち着いて運転手の話を聞こうとした。乗客が外に出られように列車を少しだけ前進させるとのことだった。
それから20〜30分後に車両の外に出ることができた。われわれは一列に並び、ラッセル・スクウェア駅に向かって線路の上を歩き出した。30分位たった後だろうか、ようやくリフトで救出された。
リフトの中では何とも言えない安堵感に包まれた。駅の構内に上がると、ススで真っ黒になった顔にショックの表情を浮かべた人たちが大勢いた。すると誰かが水を渡してくれた。のどが異常に乾いていた。肺の中はススや埃まみれになっている感じがした。まもなく、手首がガラスでえぐられ、出血していることに気付いた。傷はかなり深く、骨が出ていた。急に気分が悪くなった。
地下鉄の従業員もショックだったに違いない。しかし彼らは全力でわれわれを助けてくれた。感謝してもしきれない思いだ。彼らは実にすばらしかった。
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BBCのニュースサイト(www.news.bbc.co.uk)の書き込みからの抜粋。ペンネーム「レイチェル」の証言。
 
 
INDEX
ロンドン同時テロ
使命感に燃える地下鉄・バス労働者
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