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2004年4月 第15号
■安全を取り戻せ
 
安全を取り戻せ

港湾労組の努力の末、安全衛生に関する産業規範の決定版に労働者の権利が明記された。アルバート・レ・モニエール、ケース・マーギス

2003年12月、世界各国の港湾労組がジュネーブのILO(世界労働機関)で会合し、策定から27年を経た安全衛生に関するILO行動規範を見直した。
労組の立場から見ると、これは正に歴史的な会議だった。新たに策定された規範には、労働者の安全に影響を及ぼし得る職場慣行や技術を新たに導入する場合は、労働者と協議し、労働者の合意のもとに行わなくてはならない旨が初めて明記されたからだ。
日々の作業方法や作業器具の選択に、これまで労働者がいかに限定的な関わり方しかしてこなかったか、規範各章の作成段階で初めて気付いた会議参加者もいたことだろう。
政労使が認識を新たにしたこの点に関しては、新たな規範に確実に反映されている。その意味で、港湾労組の組合運動にとってこれは画期的な出来事と言うことができる。同時に、国際基準や国際慣行のこれほどまでに重要な側面が、関係労働者の知らないところで決定され得る危険性があることを改めて認識する意義も大きい。現在進行中の変化に港湾労組が自らを適用させていくことの大切さを噛み締める必要もある。
新規範の第2章では、安全管理プログラムの作成、安全委員会の設立、事故報告システムの設置、安全衛生代表の役割について明記している。これらは、あらゆる近代港湾が取り入れるべき要素であり、我々も大いに賛成するところだ。この規範の他にも、例えば国際標準化機構(ISO)や国際海事機関(IMO)などの国際機関が作成した様々な一連の基準が存在するが、労働者が重要な作成段階に関わったものはほとんどない。
クレーン、リフトトラック、ルースギア、ワイヤーロープ、ウェブスリングなどに関する基準は含まれているものの、ほとんどの基準が利益を優先する器具メーカーや海運会社の意見を反映するものになっている。
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労働者を無視した安全基準決定

2000年にILOの専門家委員会で国際ウェブスリング規格(いわゆるISO4878:平織りウェブスリング規格)をISOが一方的に規格リストから削除したという発表がなされたが、この時ほど国際機関による労働者無視の態度が顕著になったことはない。ISOのこの決定は、国際社会のみならず、国際港湾荷役調整協会(ICHCA)の国際安全パネルにとっても警戒心を起こさせるものだった。
この結果、港湾労働者が日常使っているスリングには、安全限度に関する基本的国際規格、製造要件、品質管理規制などが全く存在しなくなってしまった。つまり、港湾労働の規制が世界的に緩和され、実際にスリングを使って作業する港湾労働者が重要な決定の蚊帳の外に置かれていく危険性が高まったのだ。
現状では、世界第一の経済大国であるという理由から、ILOが米国のスリング基準を採用しているが、これはISO4878よりも緩い基準になっている。世界中の港湾労組が各国政府に対してISO4878の復活を求めてロビー活動を行ってくれることが、ITFの願いだ。
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秘密裏に進行する技術革新

同様のことがバーティカル・タンデム・リフト(VTL:コンテナ2本を縦に重ねて吊り上げること)についても起きている。元来は航行中にコンテナを固定するために使われていたツイストロックを使い、船会社のマトソン社がコンテナ2本を縦に重ねて吊り上げたのがVTLの始まりと言われている。マトソン社は、米国政府の労働安全衛生局(OSHA)にVTLを認可させようと試み、それ以来、しだいにVTLが広まっていった。最近ではISOでVTLの試験や実験まで行われるようになり、ISO3874のコンテナ規格にバーティカル・タンデム・リフト(VTL)を許可する追加項目が設けられてしまった。
さらに、ICHCAの国際安全パネルがVTLの安全使用ガイドラインを概略で示した文書を発行し、これと並行して、米国標準技術局(NIST)もVTLに関する独自の規格を模索し始めた。NISTは、最終的にツイストロックの荷重制限は1平方フィートあたり126,400ポンドであるという結論に至り、安全性を考慮して荷重制限として20トンを勧めている。
以上のような実験に際しても、ILWU(国際港湾倉庫労働者組合)やILA(国際沖中士組合)などの米国の港湾労組は一切関与を求められていない。2003年9月、OSHAはVTLを推奨する文書を発行し、国内外の利害関係者に向けてこの文書に関する意見を募った。VTLを使用し、僅かな利益を追求する余り、結果的に多大な損害をもたらす危険性は著しく高いということを、世界各国の港湾労組が各国政府か、あるいは直接OSHAに対して訴えてくれるようITFは要請した。
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労働者代表、存在感を示す

VTLの制度化に関しては、前述のジュネーブのILO会議でも取り上げられ、専門家委員会が作成したVTLに関する行動規範草案を検討した。労働者代表は、草案を修正し、VTLは危険であり、使用を禁止すべき旨を明記した文書を代わりに採用するように早くから提案していた。
労働側の意見は受け入れられなかったものの、VTLに関する項目自体を行動規範に含めないことが決定した。さらに、港湾の技術革新に関する方針文書を作成し、あらゆる職場慣行や技術革新の開発と進展を使用者と労働者(あるいは労働者の代表)の双方が監督すべきことを定めた。これは、労働者が技術革新導入プロセスへ参加することを許すということで、大きな進歩と呼ぶことができる。
ILO会議で労働者代表がVTL擁護案を撃破することができたのは、「労働者は自分の「商売道具」には常に自由にアクセスし、安全に使用できるかを点検できなくてはならない」という、最も重要かつ根本的原則を論点に主張を続けてきたからだ。ルースギアやリフト器具は、その構造上、使用前に念入りな点検ができないため、世界各国の港湾労働者がその使用を拒否すべきだ。構造上、ツイストロックを使用前に入念に点検することは不可能だし、それどころか実際は、荷役前にツイストロックに近づくことも難しい。
同様の原則に基づき、労働側は、ILO行動規範のうち、ラウンドスリングの使用を認可する箇所の修正に成功した。ラウンドスリングは、繊維を拠り合わせてつくった手製のスリングで、輪状で切れ目がなく、全体が同じ材質でできた保護ケースで覆われている。ラウンドスリングの問題点は、一見異常がないように見えても、保護ケースの内部でスリングが破損している可能性があることで、破損を確かめる方法がない。このように、一般的にルースギア(ワイヤーロープ、フックなどの揚貨装置に用いる遊動器具)は、張力が十分でないからではなく、きちんとした点検ができないという構造上の特性ゆえに使用すべきではないのだ。
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労働者の身体は労働者のもの

ILO会議でもう一つ争点となったのが、港湾労働者の健康モニタリングの問題だ。港湾の安全衛生に関する行動規範は、採用時健診および定期健康診断の要件に関して規定したILO第152条約に基づいて作成されている。
言うまでもなく、採用段階で労働者の矯正視力や聴力が十分で、作業に適した健康状態にあるかどうかを検査する方法を確立することが重要だ。
また、労働者が汚染物質に晒された場合は、専門家による入念な健康モニタリング・プログラムを実施することも同様に重要だ。しかし、労働者グループは、草案に示されているお仕着せの健康モニタリング・プログラムには反対の声を上げた。草案によると、使用者あるいは港湾が運営する医療機関がこれまで通り、定期的に労働者の心身両面の健康診断に責任を有すると記されていた。
草案の規定は、作業中のリスクを高めないためには、労働者が常に心身両面で業務に要求されている健康状態を保つことを確認しなくてはならないという考えに基づいている。つまり、労働者は、言ってみれば機械の一部であり、機械の保守点検を欠かさないのと同様に、オペレーターの点検も欠かすべきではないという精神の現れだった。この条項に隠された社会的・哲学的意味を考えてみると愕然とする。つまり、使用者が従業員を心身ともに所有しているというのだ。こんなことを認めるわけには行かず、労働者代表は断固としてこれに反対した。
労働者の健康の問題は社会的な問題であり、広く一般に関わるべきもので、使用者や民間企業だけの問題ではない。この原則は何があっても守らなくてはならない。守秘義務は極めて重要な問題だ。例えば、職場の安全性を保つために労働者の視力や聴力を測定しなくてはならないが、必要以上の詮索をしてはならない。コレステロール値や腎臓、肝臓、心臓といった内臓機能の検査を行う必要もある。草案では、糖尿病や行動パターンの検査などにも言及していたが、これはあらゆる職場に影響を与え得るプライバシーの侵害問題にも発展しかねない。ここまで詳細な検査を行うことに労働者グループは反対した。一人一人の労働者が自分の健康に自己責任を負うべきで、これは使用者の責任ではない。
もちろん、ILO専門家会議の草案が善意に基づいていることは分かっている。草案の作成者は、とりわけ組合もなく権利を保護されていない、貧困国の港湾労働者にとって最善の規範を作成しようと努力してきたことは確かだ。先進国では、国民の大部分が先端医療の恩恵を受けているが、貧困国にはそのようなサービスが存在しない。したがって、草案作成者は、港湾が管理する医療施設を利用するのが、労働者の健康維持のための最善策と考えたのだ。
労働者側がこれに反対したのは、国が国民に医療サービスを提供できないなら、その国の民間企業や港湾産業が医療サービスを提供できるはずはないと考えたからだ。だから草案が提示した考え方を受け入れるわけにはいかなかった。案の定、使用者側も健康モニタリングにかかる費用負担に消極的だった。結局、特別三者構成の小委員会での議論を経て、既存の健康診断に言及している段落は、必要な箇所を除いて草案から削除することが合意された。
労働者が議論に参加したことにより、港湾における安全衛生に関する行動規範の最終テキストは非常に優れたものになったと思う。労働者側として参加した全員が今では世界各国がこの規範を効果的な安全衛生プログラムとして採択すべきだと考えている。
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アルバート・レ・モニエールはカナダのILWUの副議長。1991年以来、安全衛生問題に携わっている。レ・モニエールは、ITFのケース・マーギス港湾労働者部会部長とともに、2003年12月にスイスのジュネーブで開催された港湾における保安と安全衛生に関するILO三者会議のITF代表団の共同スポークスマンとして参加した。労働者代表団の団長はマーギス部長が務めた。
新規範の主な成果
1. VTLに関する文言が、技術革新に関する一般的な文言に置き換えられた。新しい文言では、安全な職場環境の維持に言及し、新技術を導入する際には、導入前に労働者に相談し、労働者の同意を得なくてはならないと明記した。
2. 船員による荷役を擁護すると解釈できるあらゆる文言が削除された。草案の船員による船内荷役に関する記述には、船員荷役を肯定していると解釈できる部分があり、労働者側から反対が出た。これに代わる文書をICFTU・ITF代表団が提示したが、使用者と政府はこれを船員による荷役を阻止する試みと受け止め、反対の意を示した。
3. 既存の健康診断に言及している段落は、必要な箇所を除いて草案から削除することが合意された。これに代わって、仕事に関わる負傷や職業病などを検査する医療評価プログラムを推奨する文書を加えた。これに関しては、使用者と労働者およびその代表者の間の協議によって決定されることになるだろう。
4. 港湾の保安に関するILO/IMO行動規範の文言についても議論し、全文が全体会議で採択された。スウェーデンのITF加盟組合、STFのマルセル・カールステッドが労働者側のスポークスマンとして港湾の保安に関する議論に参加したが、労働組合権の尊重と組合役員による港湾ターミナルや船舶への巡回の維持に関して明確化に成功した。
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港湾における安全衛生に関するILO行動規範の詳細は、www.ilo.org/public/english/dialogue/sector/new/index.htm を参照のこと。
 
 
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