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2004年4月 第15号
■運命を待つロシア鉄道
 
ブレンダン・マーチンがロシア鉄道の改革論を分析する

ロシアの鉄道はすごい。サンクトペテルブルグやモスクワの地下鉄の精密さ、芸術作品とも言える駅、ヨーロッパから極東の1万キロを結ぶシベリア鉄道の壮大なスケール。鉄道ほどロシア国家の特徴を表しているものは他にない。
今日、ロシア鉄道が直面している問題についても同じことが言える。ロシアの大富豪「オリガルヒ」らが世界の経済エリートたちの仲間入りをし、政治権力と結びつく中で、民主主義に対する国民の不安は高まっている。ほんの一握りの「オリガルヒ」の私腹を肥やした国際産業の再編・民営化は何百万人もの人々の生活を貧困に陥れた。
現在、120万人以上の鉄道労働者が不確定の将来に不安を抱きながら生活している。鉄道産業の改革・近代化の内容が決められるのはまだ先の話だが、鉄道の行方は、経済・社会インフラを鉄道に依存する他産業の何百万人もの労働者の運命を決めることにもなる。
経済協力開発機構(OECD)が「ロシア連邦の規制改革の見直し」の一環として最近作成した報告書は、「ロシア鉄道は規模、利用率、管理・技術能力のどれをとってもワールドクラス」で、「ロシア経済にとって極めて重要な資産。政府も鉄道を主要防衛資産と位置付けている」と分析する。
そのスケールも重要性に合致する。「1999年(統計が存在する最新の年)の鉄道収入は連邦全体の収入の5%を占める。地方レベルでも同程度の収入が確保されていると推測される。これほどの収入を上げる産業は他になく、輸出のかせぎ頭であるGazprom社をも上回る」と同報告書は指摘する。
同じロシアでもヨーロッパ側では道路貨物輸送やマイカーとの競争が日増しに高まる一方、巨大な輸送距離をカバーするアジア側では鉄道と競合できる輸送モードは存在しない。しかし、そのアジア側でも、西側の競争の脅威が高まるにつれ、インフラやサービスの維持・更新に予算が回らなくなっている。
90年代の政治・経済・社会混乱は鉄道にも大きな損失をもたらした。94年の鉄道貨物輸送量は90年代末のピーク時に比べて半減し、その後もピーク時の6割程度にまでしか回復していない。(旅客輸送も同様の傾向にある。)輸送貨物の3分の1を占めるのが石炭で、その後に石油が続く。これらはロシア経済にとって不可欠な資源だ。
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危機に対する警告

OECDの報告書は「見かけの繁栄とは裏腹に、このまま何の対応もなされなければ、ロシア鉄道は10年以内に危機を迎える。重要なのは既存の固定資産を維持するための投資だ」と指摘する。
しかし、ロシア鉄道全体が赤字を抱え、貨物部門の利益が旅客部門を支えている状況の中で、投資を増やす体力はない。政府は民間資本を導入し、投資にあてようとしているが、法制度の不備や金銭的誘因(インセンティブ)の欠如から、うまくいっていない。
そこで、政府は今回の改革議論の中で、民間資本や競争原理の導入で期待される革新やコスト削減により、鉄道の経済的役割と社会的役割のバランスを保たせたいとと考えている。
「投資率は最近、激減しており、使用可能な機関車や貨車の数も減っている。政府は、行政改革を通じたコスト効率の追求はもう限界に達しており、構造改革で効率を向上させなければ、鉄道需要を満たすことができず、経済成長が阻害される危険性があると感じている」とOECDの報告書は分析する。
さらに、「鉄道改革の主な目的は、効率向上、コスト削減、サービスの向上だが、これらを、料金体系の変更、競争促進という2つの方法で行うべきだ」と提案する。
地下鉄部門は既に10年以上前に切り離され、現在は自治体が運営している。さらに、昨年10月の改革で、それまで運輸省直営だったロシア鉄道は、上下統合の国営公社、RZhDに再編された。現在は、RZhDが17の地域会社を通じて、インフラ、貨物、旅客を運営している。
改革の次なる段階は車両の製造・保守などの民営化だろう。そして、より本格的な改革がやってくるのは、上下分離が実施され、貨物運賃に市場原理が導入される段階だ。旅客運賃は、貨物同様に市場任せにされるか、既に財政が逼迫している地方自治体の補助金で賄われるかのどちらかだろう。
OECDの報告書は、「まず、インフラと運行を分離し、新規参入してきた運行事業者がロシア鉄道のインフラを使用する。RzhDはインフラを所有し、貨物列車の大半を運行する。旅客部門については、子会社を分離新設し、最終的には地方自治体に売却するか、民営化する」ことを提案している。
貨物部門から旅客部門への補助金の付け替えを段階的に廃止する計画や、国内貨物運賃と輸入貨物運賃の差別化を廃止する計画もある。
今年、計画されている他の改革は、労働者に直接影響が及ぶものだ。OECD報告書は、具体的な方法は示さずに「鉄道職員への報奨金を増やし、社会保障を強化する」ことを提案しているが、同時に、旧ソ連体制の遺物ともいえる、国鉄学校や病院の切り捨てを計画している。既に他産業では産業再編・民営化の過程で学校や病院の切り捨てが行われている。他産業の経験から言えるのは、たとえ地方自治体がこれらの事業を引き継いだとしても、地方自治体には維持する予算がないということだ。
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諸外国の経験

鉄道改革の社会的影響を予測するには諸外国から学ぶのがよい。例えばラテンアメリカでは、補助金の付け替えが廃止されて以後、国も地方自治体も旅客部門への補助金配付を積極的に行わなくなり、旅客、特に都市鉄道は崩壊していった。貨物部門には、運賃に市場原理を導入することで利益増が見込まれる分野もあるが、他の分野では運賃上昇だけを招き、関係産業の多くの雇用が失われることが予想される。
OECDもロシア政府と同様に、コスト競争を通じて経済全体が成長し、雇用が創出され、社会福祉の長期的向上につながると仮定する。たとえこの「仮定」が正しかったとしても、多くの鉄道労働者の雇用が犠牲になることには変わりはない。ラテンアメリカの鉄道改革で75%の雇用が失われたように。
OECDの報告書にはEU域内の鉄道改革や鉄道関連の規制改革についても触れられているが、大部分は市場圧力が似ているロシア鉄道とアメリカ鉄道との比較に紙面が割かれ、次のような不吉な分析がなされている。
「規制緩和により、アメリカの鉄道貨物輸送料は大幅に下がったが、鉄道市場は安定し、労働者の生産性、資産運用率が急増したため、実際の収入は増えた」さらに、現在、OECDがロシアに推奨している規制緩和がアメリカで導入されてから、従業員一人あたりのトンキロベースの生産性が500%以上も上昇したことがグラフで示されている。
規制緩和はロシアの鉄道労働者にとっては大変なものとなるかもしれないが、他の選択肢はさらに悪い結果をもたらすと同報告書は主張する。「一定の規制の枠内で、市場原理に基づいた価格設定の自由をロシア鉄道に与えなければならない。価格設定の自由がなければ、採算性の高い部門ですら道路輸送との競争に敗れてしまうし、ビジネス顧客の中には私有鉄道を敷こうとするものが出てくるかもしれない。数年以内にロシア鉄道の収入は減少し、鉄道の価格設定で地域経済を支えるという仕組みも機能しなくなるだろう。たとえ近距離旅客事業を特別予算に分離したとしても、鉄道全体のコストをカバーするのはますます難しくなっていくからだ」
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ブレンダン・マーチンは民営化や公共サービス改革の政治・社会・労働的側面を専門とする国際団体「パブリック・ワールド」(在ロンドン)の部長
OECDの改革プロセスと労働組合

ロイ・ジョーンズ

経済協力開発機構(OECD)の仕事に馴染みのない読者は、ロシア鉄道の改革とはいったい何なのか?なぜ労働組合はこの問題に関心を寄せる必要があるのか?と疑問を抱くことだろう。そこには3つの答えがある。
まず、改革議論は何もないところからは生まれないこと。常設の政府間組織であるOECDは、主要公共政策の策定を主な仕事としているが、1995年に各国のさまざまな規制を順次、見直していくことで合意している。
第二に、ロシア政府がOECD加盟実現対策の一環として、2001年11月にこの見直し作業に参加することで合意したこと。ロシア経済に不可欠なロシア鉄道の改革は、OECDの幅広い見直し作業の一つに過ぎない。
第三に、OECD労働組合諮問委員会(TUAC)が、OECDの諮問機関としての立場を活かして、労働組合に議席を与えたり、関連資料を提供したりしていること。
OECDの見直し作業に労働組合の意見を効果的に反映させるためには、TUACメンバーのナショナルセンターや、産別経験の豊富な国際産別組織(GUF)からのコミットメントが欠かせない。中でも国際公務労連(PSI)はこのプロセスに完全に関与している。ITFもロシア鉄道の改革のように、対象が交通運輸の場合は積極的に関与している。
今や、OECDの規制見直し会議が開かれる際には、労働組合が全面的に参加するまでに至っている。OECDが会議前に調査チームを対象国に派遣する際には、その国の政府と規制改革の取り組みについて議論するほか、労働組合とも会合を持ち、意見を聴取している。
調査チームはこれらの議論を基に報告書(部外秘)を作成し、OECD加盟国、TUAC、BIAC(TUACの使用者版)、関係GUFに送付するが、TUACは報告書を受け取ると、関係加盟組織に転送し、意見を求めている。
規制見直し会議でTUAC-PSI代表団は、労働組合権の侵害など、労働運動にとって重要な問題を提起している。コーヒー休憩の時のちょっとした会話が、政府と労働組合の全国レベルの会合につながることもよくある。OECDの最終報告書に労働者のためになる政策勧告を盛り込ませたという成功例もある。
この見直し作業が始まった1995年頃、各国政府やOECD事務局の中には、規制改革と言えば規制緩和という意見が強く、経済的側面にのみ焦点があてられがちだった。もちろん、われわれはこのような単純な考え方には異論を唱えてきた。そして今ようやく、われわれの主張が理解され始めたという感触を掴んでいる。
現在、規制見直し会議のような場で、「規制緩和」という言葉が発せられることはほとんどなくなった。むしろ「再規制」という言葉の方をよく耳にする。社会・環境規制も同じように重要なのだということが徐々に理解され始めているのだ。政府やOECD事務局は規制緩和に関するさまざまな経験から多くの教訓を学んだようだ。同時に、異なった側面から物事を見直すために、労働組合の必要性に目が向けられるようになっている。
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ロイ・ジョーンズはOECD労働組合諮問委員会(TUAC)の上級政策顧問
鉄道改革
組合の意見


デビッド・クリシュタル

ロシア鉄道運輸建設労組(TURTCWR)はロシア鉄道の構造改革が避けられないことを承知している。OECDの推奨する改革原則にも概ね賛成し、改革の全段階(コンセプトに関する議論、準備作業、法案作成、改革の初期段階の実務、フォローアップ作業など)に積極的に関与することを決めた。
われわれの目的は改革に社会的側面を反映させることだ。鉄道産業の将来的発展のためには、運行・技術・経済・財政的側面のみならず、社会的側面も考慮する必要がある。
2000年9月の中央執行委員会で採択された文書「構造改革発展コンセプトに関する組合の意見」には、改革プロセスに関与する上での基本的条件が定められている。つまり、労働者の社会的保護と、市場経済で鉄道がうまく機能するために必要な規制の確保だ。
改革は進んでいる。われわれの前途にはたくさんの難題が待ち受けている。それらの問題を解決する道が見つかったわけでもない。しかし、われわれは労働組合と企業の関係は「ソーシャル・パートナーシップ(労使対等の協力関係)」の原則がこれからも中心になり続けると信じている。
われわれは10年前、対立(confrontation)よりも合意(consensus)を重視し、「ソーシャル・パートナーシップ」路線を選択した。この原則は今日、これまで以上に重要になっている。
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デビッド・クリシュタルはロシア鉄道運輸建設労組(TURTCWR)の副委員長
 
 
INDEX
民営化の弊害に立ち向かう南アフリカの労働者
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