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No.19/2005 |
■ウォーターフロントの結束 |
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荷役を取り戻せ
荷役は訓練を受けた港湾労働者が行うべきだが、荷役をするように言いつけられる船員が後を絶たないとエロール・カベッチは言う。
船員による荷役が増え、これまで港湾労働者と船員が培ってきた相互支援と連帯の精神が揺るがされている。船員による荷役は港湾労働者と船員の双方に雇用権、福祉、職場の安全衛生などの面での課題を提示している。
港湾労働と荷役に関する国際法は存在しないが、伝統的にも荷役は港湾労働者の仕事であると理解されてきた。この伝統は、国内法規によっても擁護されてきた。国際的には、1979年の(港湾)労働安全衛生に関するILO152号条約と1973年の港湾労働に関するILO137号条約の2つの条約がある。
137号条約の3−2項には、「登録港湾労働者が荷役を優先的に行う」と記されている。しかし、条約は各国が批准しなければ実施されない。現在、ILO152号条約と137号条約を批准しているのは、それぞれわずか22ヵ国と25ヵ国にすぎない。ITFのユニフォーム協約には、船員に荷役を要求したり、荷役をするよう説得したりしてはならないという条項が含まれている。
しかし、既存の協約や規則から現状を判断することはできない。実際、規制緩和のプロセスは進んでおり、例えば、港湾局が未組織労働者や日雇い労働者を使うと決定する可能性がある。厳しい環境の中、新しく開発が進む港や、特に民間のターミナルは、船会社をひきつけるため、労働コストをさらに削減する選択をするかもしれない。そして、その影響の一つが、船員による荷役の増加だ。
あるAB船員がこう報告している。「運航時間が短いため、自分たちでラッシングもアンラッシングも行う。自分の知る限り、職員は荷役手数料を受け取っていて、自分らも貨物1個につき、1ドルを受け取っている。最初の数ヵ月はきつかったが、そのうちに慣れてきた。先月は荷役で400ドルも稼いだ。一船に積まれる貨物は400個くらいなので、荷役はほんの6〜8時間で終わる。ラッシング時間は通常の勤務時間には含まれない。その他、これまで通り保守作業や当直の仕事も行っている」
この報告からも分かるように、船員は通常、荷役作業のための追加手当をもらっている。一般的なレートは、ラッシングは貨物1個につき、1ドル、アンラッシングは1個につき50セントで、そこからいろいろ差し引かれ、最終的に船員は月500ドルくらいを荷役作業で稼ぐことができる。こうした手当は、通常、給料明細には「臨時手当」として記入されている。船員は荷役手当を通常の賃金と別に受け取っているため、荷役作業時間は勤務時間として数えられない。ある意味では、船員が荷役作業を下請けしているとも言える。
長時間労働と様々な弊害にもかかわらず、臨時収入を得られるため、荷役を喜んでやる船員もいる。また、職員は船員による荷役を継続するよう奨励金を受け取っているし、船主にとっても儲かる慣行なため、船員には常に荷役をやれというプレッシャーがかかる。
船員が荷役を行えば、港での滞留時間も短縮される。例えば、船員は船が港に入る前にアンラッシングを開始することができる。最近行われたあるインタビューで、ある船会社のシニア・マネージャーは、自社の船では船員に荷役をさせているが、船員に払う荷役手当は港湾労働者を使う場合と同等だと語った。彼は、船員に荷役をやらせることの利点は港湾作業のスピードアップだと強調した。船員なら、必要な時にいつでも荷役をさせることができる。
もちろん、船員に荷役をさせている企業ばかりではない。船員による荷役は近海のRo-Ro船やコンテナ船によく見られる。一部の港湾(特にフランス)では許可されていないが、船員による荷役は欧州全土で一般的に行われている。港湾労働者や船員より安価な派遣労働者を連れてきて荷役をやらせる企業もある。英国では、日雇いの港湾労働者は一般的に最低賃金しか稼げない。
コンテナ船やRo-Ro船は特に港での処理時間が短く、荷役をやらされると、船員は上陸できなくなってしまう。これは深刻な福祉問題だ。船員はこれまで以上に船に閉じ込められることになる。最近、船員国際研究センター(SIRC)が行った船員の仕事と私生活のバランスに関する研究から、この何年かで「上陸」の考え方が変化してきたことが分かる。近頃では、多くの船員が一番近い公衆電話に行って電話をかけることを「上陸」と考えている。船員は非常に弱い立場にあり、手当をもらえない場合にも、荷役を拒否するのが難しいと感じている。別のAB船員が次のように述べている。
「X港(自国の港)からY港に寄航し、Z港に向かう船で、X港で2,800個の貨物を積み込んだ。ラッシングもアンラッシングも自分たちで行った。時には食事休憩だけをはさんで連続28時間働くこともある。ラッシングをしても特別手当はもらえない。現状を受け入れるしかない。文句を言えば、マニラの配乗代理店は私を次の船には乗せてくれないだろう。旅券も、船員登録書も、船員訓練資格証も全て代理店が持っている。これらの書類を預けなければ、休暇手当をもらえない。代理店は、船員が勝手に他の会社に移るのを防ぐため、これらの書類を管理している。こんな状況でも、船員はこの代理店から仕事をもらいたいと考えている」
しかし、長期的に見て荷役作業は健康を害すると考える船員は多い。また別のAB船員は「月に荷役手当を500ドルも受け取っているが、仕事はとてもきつい。もらった金は全部、将来医者に払う治療費になるだろう」と言っている。
しかし、あるポートチャプレン(港湾牧師)が述べるように、プレッシャ−をかけて船員に荷役をやらせることは、もっと深刻な結果を招きかねない。
「ここでも死亡事故が発生してしまった。船員は大きなプレッシャ−を抱えているため、間違いや手順の省略が起きることもある。今回の死亡事故も起こるべくして起きた。事件の一週間後、船が港に帰ってきた時、私は仲間の船員の死を目の当たりにしたAB船員のカウンセリングを行わなければならなかった。この船員は、『常に大きなプレッシャ−があった。コンテナのラッシングを終了したらすぐに船を海に出す準備をしなければならなかったため、2人で相談してリスクを犯した。仲間の死の原因となったのは、最後から2本目のコンテナだった』と述べた。彼らは、これまで常にコンテナを積み込みながらラッシングも行っていた。港に入るたびに生命をリスクに晒していたのだ」とポートチャプレンは語った。
この船員が何故そんなリスクを犯したと思うかと聞かれた時、ポートチャプレンはこう即答した。「出航スケジュールを守るためだ。遅れれば罰せられる」
新技術、規制緩和、日雇い労働者の導入、新ターミナルの出現、港湾開発、港湾オペレーター間の熾烈な競争など、あらゆる要素が伝統的な港湾労働者を難しい立場に追い立てている。
船員や日雇い労働者によるセルフハンドリング(自家荷役)は、各国政府、船会社、港湾局、船員などから広く許容されている。しかし、もちろん、港湾労働者はこれを認めてはいない。リサーチに基づくデータから、船員の福祉と安全衛生のためにも、荷役はやはり訓練を受け、経験豊富な登録港湾労働者に任すべきことが明らかになった。
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エロール・カベッチは、カーディフ(英国ウェールズ州)の船員国際研究センターの主任研究員。この記事は、ミッション・トゥー・シーフェアラーズの新聞「ザ・シー」に掲載された。 |
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船員と港湾労働者は協力すべきだ
ITF港湾部会の新部長フランク・レイは、昔から連帯と歴史の教訓を大切にしてきた。今から30年以上前にアントワープ港で働き始めて以来、常に最前線で港湾労働者と船員の共同活動を組織してきた。また、技術革新がウォーターフロントにもたらした大変革も目の当たりにしてきた。
ITF港湾部会の新部長フランク・レイは、昔から連帯と歴史の教訓を大切にしてきた。今から30年以上前にアントワープ港で働き始めて以来、常に最前線で港湾労働者と船員の共同活動を組織してきた。また、技術革新がウォーターフロントにもたらした大変革も目の当たりにしてきた。
「船員(特に部員)と港湾労働者は同じ立場にあり、グローバル・サプライチェーンの中でも重要なつながりをもっている」とレイ部長は述べる。
長年ベルギーの港でITFインスペクターやコーディネーターを務めてきた現場の経験から、船員と港湾労働者はしばしば同じ問題を抱えていることも知っている。船員も港湾労働者も、ウォルマートのような米国のスーパーマーケットなどのグローバル荷主の圧力により、コストを押し下げようと躍起になっている船主や港湾オペレーター(しばしば共同で多国籍企業を形成している)からの圧力にさらされている。
「今、我々はあからさまな資本主義の台頭を目の当たりにしている。ちょうど19世紀の末に港湾労働者と船員を賃金の切り下げ、日雇い化、搾取から保護するためにITFが設立された時の状況とよく似ている。港湾は、単に物を積み替える場所から、グローバル流通チェーンの中のハブへと変化した」とレイは言う。
こうした問題に対応するには、ちょうどレイの出身組合であるベルギー運輸労組(BTB)が約100年前のITF設立時に中心的な役割を果たした際と全く同じ方策を取らなくてはならない。「船員と港湾労働者は協力しなければならない。船員が荷役をやれば港湾労働者は仕事を失うが、船員にも悪影響は及ぶ。船員が港湾に入ってまで仕事をしなければならなくなれば、上陸もできなくなるし、休むことなく労働させられることになる」
近代ロジスティックス産業の発展と新しい港湾ターミナルへの巨額投資は、使用者が荷役を阻むいかなる動きにも断固として反対しようとする意思を強固にしていることの表れである。労働組合は、しばしば克服すべき障壁と見なされており、これにより、雇用と雇用条件はひどい悪影響を受けることになる。
「変化に反対しているわけではない。労働組合と組合が代表する労働者が始めから関与することを求めている。アフリカのダル・エス・サラームでは、600人の組織港湾労働者が解雇され、300人の未組織労働者にとって代わられた。マレーシアで働くベトナム人とインドネシア人の港湾労働者はマレーシア人より低い賃金しかもらっていない。つまり便宜港湾となっている」
「欧州では、船員による荷役を奨励する港湾指令案が再び持ち上がっている。米国でも未組織労働者の導入により、苦労の末勝ち取った港湾労働者の雇用が脅威にさらされている。
しかし、ウォーターフロントだけが圧力にさらされているわけではない。その日届いたEメールをチェックしながら、レイはこう述べた。「この船員はキプロス籍のバラ積み船に乗り組んでいるが、この船のギリシャ人の船長はITF協約を修正して船員が荷揚げをできるようにしようとしている。珍しい話ではない」とレイは述べる。
レイ部長は、伝統的に港湾労働者がやってきた仕事をやるように支持された場合は、ITFに連絡してくれるよう船員に要請している。「これまでと同様、今後も船員と港湾労働者はお互いに依存関係にある。だからこそ、ともに立ち上がらなければならない」
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