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2008年4〜6月 第31号 |
■総選挙を終えて |
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ラッド新政権が導く、オーストラリア海運のルネサンス
ケビン・ラッド首相とジュリア・ジラード副首相の就任により、オーストラリア海運とその職場で、民主主義がルネサンスを迎えようとしている。この変化の風は、国際海運全体にも波及効果を及ぼしている。ゾーイ・レイノルズが報告する。
オーストラリアの労働者は、再び組合に加入できるようになるだけでなく、政府や企業とともに、産業政策の決定プロセスにも参加できるようになるだろう。
企業が、雇用や雇用条件、労働の安全を、一方的に決定する暗い時代は過ぎ去った。もはや使用者は、気まぐれに人を解雇する権利を有しない。今、雇用の安定が復活しつつある。個人契約は法律により廃止され、労働者は組合により組織される権利を、また組合は職場に立ち入る権利を、再び獲得する。
2007年11月24日に労働党政権が誕生した背景には、労働組合と組合員の大きな貢献があった。総選挙までの2年間、接戦が予測される選挙区では、組合が地域社会を巻き込んだキャンペーンを展開してきた。ゴールデンアワーに洗練されたテレビコマーシャルを流したり、資金集めのためのホットドックの販売やロック・コンサートも行ったりした。こうした活動を展開するうち、2007年の連邦政府総選挙は、実質的に、労使関係に関する国民投票としての側面を持つようになってきた。組合の「ユアライツ@ワーク(職場における、あなたの権利)キャンペーン」が、ハワード政権の主な敗因であったことは広く、認識されている。
「海事労働者と鉱山労働者は前線に立ち、ハワード政権と闘った。接戦が予想される主要選挙区へは、経済面と人材面で資材を投入した。ハワード首相自身が議席を失ったベネロン選挙区も、その例外ではなかった。現職の首相が議席を失うのは、1929年に同じく反組合的な労使関係法を導入して敗退したスタンレー・ブルース首相以来のことだ」とオーストラリア海事組合(MUA)のパディ・クラムリン全国書記は述べる。
「ワークチョイス(仕事の選択)」と呼ばれる、ハワード政権が導入した厳格すぎる労使関係制度は、英国の人頭税に匹敵すると考えられている。英国のマーガレット・サッチャー政権は、人頭税の導入がきっかけとなり、1990年に敗退した。「仕事の選択」は業界以外では悪名が高く、ハワード政権の失墜を確実にした。しかし、ハワード政権の害悪を完全に除去する作業は、一夜にしては実現しない。反組合的な労使関係法は、労働組合に敵対的な上院に守られて今年7月まで続くだろうから、状況を完全に改善するには2010年まで待たなければならない。ハワード首相が導入した労使関係法が完全に廃止されるのを見届けるまで、オーストラリアの労働界には、やるべきことがまだ残っている。
海運産業は、11年に及ぶ保守政権の弊害を、最も多く受けた産業だ。イデオロギー的に労働組合を忌避し、バラ物商品グループや海貨業者を代弁する形で、利益最優先主義を信奉したことから、ハワード政権はオーストラリア商船隊の衰退を招いた。オーストラリアの国内航路は、安い便宜置籍(FOC)船に解放され、オーストラリアの港と地域社会は、環境面および安全保障面でリスクにさらされている。硝酸アンモニウムのような爆発性物質の輸送ですら、最低コストを提供する業者に任されている。
オーストラリア海事組合(MUA)は、多額の資金を投じ、総選挙の準備期間を通して、影の労働党内閣に対するロビー活動を集中的に行ってきた。その結果、今後、オーストラリアの海運政策は、あらゆる交通運輸産業と比べても最大の変革を遂げることになろう。 |
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決意
2007年4月の労働党大会において、ラッド政権到来の暁には、オーストラリア人船員をオーストラリアの労働基準で雇用し、力強く、持続可能な内航海運の実現に向け努力する、と労働党は約束した。これは、航海法の中のカボタージュ規制を厳格化し、自国籍船がFOC船となり、基準以下の条件で働く外国人船員を乗り組ませた形でオーストラリアの国内航路に戻ってくるといった、この数年間の流れを終結させることで達成されるべきだ。
労働党は、オーストラリアの税関手続き、税金、移民法および労働法の適用を、船舶の登録国、乗り組む船員の国籍、船社の本拠地のいかんを問わず、全てのオーストラリアの国内航路に適用すると約束している。
ジョン・シャープ(保守党)とピーター・モリス(労働党)の二人の元運輸大臣の共著、「オーストラリア海運の青写真」が今、再検討されている。
また、労働党は、次のことを行うと約束している:便宜置籍(FOC)制度によって生じる権利侵害と闘うべく、あらゆる船舶と旗国の真正な関係を確保する。特に、戦略的な天然ガスの輸送において、航路ごとの二国間協約を結ぶことにより、オーストラリア籍船やオーストラリア人船員の国際海運への参加を促す。外航船の船員の上陸権を担保する。国際海事機関(IMO)やISPS(船舶と港湾施設の国際保安)コードに従い、福祉関係組織、労働組合、訪問客の訪船を担保する。ILOやIMOの条約、コード、勧告、とりわけILOの船員の権利章典(海事労働条約)を批准し、遵守する。オーストラリアの港湾に入る外航船の船員の権利を保護する上で、ITFが果たしている重要な役割を認識する。
また、労働党は、オーストラリア、東ティモール、パプアニューギニア、インドネシアが共有する経済水域を航行する船舶に関しては、各沿岸国の船員を優先的に雇用することと、その船員の雇用条件、適用される安全法、海事法はオーストラリアの沖合ガス石油産業の船員と同等のものにすることも約束した。また、オーストラリアの沖合産業での技術要件に合うよう、関係沿岸国の人材育成にいかに参加すべきか、地域の発展策の一環として関係国との協議を推進する、と公言した。 |
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産業革新協議会
労働党は、産業革新協議会を労組代表とともに立ち上げ、世界一流の海運国を目指し、オーストラリア海運再建のために長期投資を促し、海技不足の問題に取り組み、戦時下の船員の貢献に敬意を表して商船記念日を制定し、港湾労働者のための全国荷役安全コードを制定し、海事保安身分証明書を真の保安上の脅威を発見するためにのみ用い、船員を抑圧するためには用いないことを確保する予定である。
オーストリア海事組合(MUA)と新運輸大臣との第1回会合は、12月18日に行われ、その後も何度が行われている。
ハワード政権がMUAを含む労組を攻撃していた際、アジア、米国、欧州のITF加盟組合やITF幹部が、MUAや他のオーストラリアの運輸労組を支持し、連帯を表明してくれたことをMUAは忘れない。
オーストラリアの新たな政治的展開により、MUAや他の交運労組が連帯の恩返しをし、ITFのグローバルな組織化戦略においてリーダーシップを発揮していく上で、より強固な地盤が出来上がった。 |
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労働党の運輸政策に関する綱領の全文は、下記のサイトで閲覧できる:
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ゾーイ・レイノルズは、MUAの広報部長。 |
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権利のために立ち上がる労働者
クリステン・ウォール
オーストラリアのトラック運送会社、マッカーサー・エクスプレス社が衝撃的な破綻に追い込まれた影響で、700人以上の家族が何の手当ても与えられないまま、職を失った。2007年11月末、732人の従業員、下請け業者の従業員、オーナードライバー(持ち込み運転手)らがマッカーサー・エクスプレス社に出勤したところ、会社の門が閉鎖されていた。トラックで出社した運転手らは、トラックを路上に放置するよう言われ、帰宅手段もなくなってしまった。
マッカーサー・エクスプレス社で働く男女とその家族は、この悪夢が現実と化すまで、予測することすらできなかった。ヴィンス・レーガンは3人の子供の父親だが、会社が破綻するわずか2日前に1万オーストラリア・ドルのローンを組んでしまった。「こんなことになって、どうやってローンを返済しろというんだ。会社の業績が思わしくなく、自分の雇用も不安定だと分かっていれば、こんな大金は絶対に借りなかった」とレーガン。
長年、マッカーサー・エクスプレス社は労働組合に極めて敵対的であったため、労働者は未組織で、会社からの攻撃に脆弱であった。しかし、ITFに加盟するオーストラリア運輸労組(TWU)は、同社の従業員やその家族とともに闘い、彼らの労働債権を回収することを約束した。
闘争開始
当時のジョン・ハワード首相とジョー・ホッキー雇用相に対し、マッカーサー・エクスプレス社の従業員と家族を支援するようTWUが要請した4日後、ホッキー大臣がマッカーサー・エクスプレス社の従業員を、一般労働債権補償制度(GEERS)の補償対象とし、まず緊急援助金を支払うと発表した。
しかし、1ヵ月経っても、430人いた従業員のうち、わずか11人にしか緊急援助金が支払われなかった。
マッカーサー・エクスプレス社の元従業員、ブライアン・ミルソンは2人の幼い子供を持つ父親だ。「緊急援助金のはずなのに。ローンもあるし、家族も養わなければならない。何週間も前に、この金が必要だった」とミルソンは語る。
忘れ去られているのは、従業員だけではない。「ワークチョイス(仕事の選択)」制度の担当相であるホッキー雇用相は、マッカーサー・エクスプレス社から業務を請け負うオーナードライバーや下請け業者にも背を向けた。
オーストラリア運輸労組(TWU)は、GEERS制度の下で許されている大臣の権限を行使し、74人のオーナードライバーと300名の下請け業者にもGEERSを適用するよう、ホッキー大臣に繰り返し求めた。しかし、適切な処置を取り、これらの労働者の権利を保障するどころか、大臣は自らの権限を行使し、策を弄して、責任をニューサウスウェールズ州の政府に転嫁した。
理屈の通らない行為だ。マッカーサー・エクスプレス社と契約するオーナードライバーや下請け業者は、ニューサウスウェールズ州だけでなく、クィーンズランド州にも、西オーストラリア州にも、南オーストラリア州にもいるからだ。これはオーストラリア全土に関わる問題であり、困窮する運転手を救済するのは連邦政府の責務である。
ホッキー大臣は、人の命をもてあそんでいる。マッカーサー・エクスプレス社から業務を請け負っていたケンプ夫妻は、書簡を送付し、大臣に救済を求めた。「マッカーサー・エクスプレス社の倒産で、私たち夫婦と3人の子供は、住む家を失うかもしれません。このままでは、生活保護を受けざるを得なくなるでしょう。政府が支給してくれる緊急援助金に、私たちの生活がかかっています」と、ケンプ夫妻は書簡に綴った。
ケンプ夫妻のような中小企業の経営者にとって、GEERS制度を通じて政府の援助が得られるかどうかは死活問題だ。一方、オーナードライバーのエドモンド・オディショーは、こう述べる。「最初、ホッキー雇用大臣が中小企業救済に乗り出したのかと思ったが、結局のところ、どうにもならず、我々の生活を破壊するしかなくなったんだろう」
別のオーナードライバーのスティーブ・ガウチには、妻と幼い娘がいる。ガウチは、マッカーサー・エクスプレス社から、トラックを9万オーストラリア・ドルで買い取るよう勧められた。同社が倒産する数ヵ月前のことだった。会社が倒産した時、オーナードライバーになりたてのガウチは、まだ最初の給料支払いも受けていなかった。つまり、第1回目のローンも支払っていなかった。「1万5千ドルの給料が未払いになっていて、9万ドルの借金もある。政府が、援助される者とされない者を分けるのは理解できない。従業員だろうと、オーナードライバーだろうと生活費はかかるし、家族を養わなければならないことに変わりはない」とガウチは言う。
オーナードライバーや下請け業者にとって、泣き面に蜂だったのは、ウェストパック銀行が破産した場合、そちらの従業員がマッカーサー・エクスプレス社の従業員より先に救済を受ける、というニュースが広まったことだ。こうなると、マッカーサー・エクスプレス社のオーナードライバーや下請け業者が受け取るべき賃金や諸給付が支払われる前に、政府の援助金が底をつく可能性が高くなる。オーナードライバーや下請け業者は、GEERS制度の適用外に置かれれば、援助金は一切、受け取れない。
選挙は語る
TWUは、マッカーサー・エクスプレス社のオーナードライバーや下請け業者のために闘い続けると約束した。
勤勉なオーストラリア国民が苦しんでいるのに、ホッキー大臣は策を弄して問題を放置すべきではない。ハワード政権は、この問題を放置しても逃げ切れると思い込み、労働者を切り捨てたが、その付けを払わされる日は近づいていた。
オーストラリアの総選挙は、ハワード政権が労働党政権に敗北して幕を閉じた。組合活動家は、与党に投票しないことで、ハワード首相とその内閣に対し、「勤勉な国民を軽んじて、逃げ切れると思うな」という明確なメッセージを送るよう有権者に訴えた。 |
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クリステン・ウォールは、オーストラリア運輸労組(TWU)のメディア通信部次長。 |
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