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2008年4〜6月 第31号
■海運と温暖化ガス
 
解説
大気に放出される排ガス:よりクリーンな船舶へ


気候変動が進むにつれ、今や環境保護と温暖化ガスの削減は世界中のほとんどの国の政府で懸案事項となっている。そのため、海運産業が環境に及ぼす影響について、監視の目もさらに厳しくなっている。現在、船舶による大気汚染に関するIMO作業部会で検討されている問題について、ケイティ・ヒギンボトムが解説する。

「船舶は最も経済的かつ環境に配慮した、世界貿易の95%を担う輸送手段である」と考えるにしても、「船舶は汚染の主な元凶であり、あらゆる策を講じて海上貿易を制限すべきである」と考えるにしても、舶用エンジンの排ガス問題に海運界が早急に対処すべきであることは、一般的に認識されている。
2007年7月に国際海事機関(IMO)の大気汚染に関する作業部会が設置され、船舶からの排ガスを削減するという選択肢をとった場合、環境面、健康面、海運業界、石油業界にどのような影響が及ぶのかを検討している。
同作業部会設置の目的は、特に、ディーゼル・エンジンの燃焼から発生する煤煙や微粒子などの硫黄酸化物(SOx)や粒子状物質(PM)の排出を削減することによる影響と、それが窒素酸化物や他の排気ガスにどのような波及効果をもたらすか、を考察することである。
これは化学、テクノロジー、経済などの側面から見ても複雑な問題だが、結局のところ、残渣燃料(高硫黄燃料とも言われる)から留出燃料(舶用ディーゼル燃料または低硫黄燃料とも言われる)へのシフトを進めるべきか、それとも低グレードの燃料を燃焼させた場合に生じる汚染物質が大気に放出される前に除去するメカニズムやシステムを導入すべきか、という議論に行き着くように思われる。
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燃料の選択

現在では、6割の船舶が製油過程で残留する化学物質、金属、灰、沈殿物などを含む高硫黄燃料を使っている。このようなグレードの低い燃油を燃焼させているため、船舶は石油産業の廃棄物を処理する海上の焼却炉と見なすこともできる。残渣燃料を使うためには、加熱、精製、また添加剤も必要となり、大量のスラッジ(汚泥)が発生するため、これを船内で燃焼するか、または陸上で廃棄する必要が生じる。最近の調査から、低硫黄燃料へシフトすることにより、機関部員の負荷が65%軽減されることが分かった(二等機関士の場合は75%軽減)。部品のオーバーホールに要する時間が、67%短縮されるからだ。
舶用ディーゼル・エンジンに、残渣燃料ではなく、留出燃料を使用することで、放出される粒子状物質の量が6割から9割軽減される可能性もある。このため、発ガン性物質や重金属の排出も低減でき、SOxの排出量も著しく下がる。
地域ごとに排出規制が異なり、SOx排出規制特定海域(SECA)にも従う必要があるため、現在でも、残渣燃料を使用している船舶は、SECAに入る前に余裕をもって、エンジンの部品を低硫黄燃料用のものに取り替えなければならない。例えば、アジアから欧州へ向かう航路の場合、100海里規制に従うと、SECA航行のために20回もエンジン部品を取り替えなければならない。
当然のことながら、ここで考慮しなければならないのはコストだ。留出燃料は残渣燃料に比べ、トン当たり5割から7割も高い。シェブロンのスポークスパーソンによると、船舶用の燃料を完全に留出燃料へ移行させるためには、新たに精油施設が必要になるが、そのコストは1,260億米ドルにも上る。
精油工場の生産のうち、現在、残渣燃料が占める割合は16%であり、そのうちの半分が船舶用となっている。海運産業は現在、基本的には廃棄されるべき燃料を買っているわけだから、これを止めるといえば、石油業界は当然反発するだろう。また、石油製造業者が排出規制の対象外となっている国も多く、石油業界が、精油や燃料の燃焼により生じる汚染の責任を、海運界と分かち合うとは考えにくい。
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排ガス処理装置

良質の燃料への移行に代わる代替措置としては、排ガスの大気への放出を防ぐ方法もある。「排ガス処理装置」と呼ばれる方法だが、残渣燃料からSOx、NOx、粒子状物質などを除去する処理装置を利用することで、理論的には留出燃料を利用するより排ガスがクリーンになるはずだが、残念ながら、この装置にも限界がある。
最も初期の処理装置は、海水浄化装置を用い、天然アルカリ性という海水の性質を活かし、酸性の排ガスを中和するというものだった。浄化装置から排出される水は海に戻されるが、その際に生成されるスラッジは、一旦、船内に保管し、陸で廃棄しなければならない。新しいテクノロジーではないが、この機能については実験が少なく、また、以下のような欠点もある:
■補器類を含め、エンジンやプラントごとに、別々の浄化装置を取り付ける必要がある。
■大量の海水を必要とし、総電力の1〜2%を消費する。
■海水浄化装置は非常に大きなスペースを占め、通常の船舶よりも大きな煙突が必要になる。
■酸性のスラッジ(汚泥)を一旦、保管し、陸揚げしなければならない。
■浄化装置の設置コストが、1船当たり400〜700万米ドルに及ぶ。装置も入手が容易ではない。
■海水浄化装置は、SOx排出規制特定海域(SECA)や沿岸海域では使用できない。

産業界の関心は「環境か、コストか」の選択に集中するのだろうが、ITFにとって最も重要なのは、船員や港湾労働者に及ぶ影響である。
船が公海上にある場合、排ガスは比較的よく分散されるため、最も危険なのは燃料油を取り扱う作業や機器の保守作業時となる。また、船が減速したり、方向転換する場合、あるいは港に停泊中、排ガスが船員や港湾労働者に及ぼす影響は多大なものになる可能性がある。
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労働者の健康

排ガスが労働者に及ぼす健康被害については、研究が十分ではないが、欧米や日本の道路輸送や陸上の産業においては規制が厳しいため、健康面での被害についても大きな改善が見られている。ロサンゼルスやロングビーチなど、カリフォルニア州の港で策定された「クリーン・エア行動計画」では、向こう5年間に45%の改善を目指している。また、米環境保護庁は、空気の質を管理することによって、年間の早死する人数と入院数を大幅に減らす計画である。早死に関して最近発表された世界的調査によれば、年間64,000人が船舶から発生する排ガスが原因で早死しており、この数値は2012年には4割上昇することが予測される。この数値だけでも深刻な警告と受け止めるべきであるが、一般的には質的に限界のある報告書に基づいた数値であることも否めない。
船員は、航海中や船内での保守作業の際に、明らかに危険な気体や物質、特に高硫黄燃料の被害を受ける危険性が高い。一方、港湾労働者、とりわけクレーン・ドライバーが船舶からの排ガスの影響を最も受けやすいことは否定できない事実である。低硫黄燃料を使用することで、こうしたリスクを軽減することが可能だ。また、いわゆる「コールド・アイアニング(陸上側からの電力供給)」などの対策も、リスク低減に結びつく可能性がある。コールド・アイアニングの問題点は、陸上からの大量の電力供給が必要なことと、高価で、国際的に互換性のあるインフラが、港湾と船舶の双方に必要な点だ。船舶が同じ港を定期的に訪れ、停泊時間も比較的長い場合は、コールド・アイアニングの導入を検討する価値はあるが、残念ながら、普遍的な解決法とはなり得ない。
ITFは、あらゆる点を考慮し、海運業界が協定を結び、船舶用低硫黄燃料への強制的移行を実施すべきだと考える。IMOの専門家会合の中で明らかになった事実からも、低硫黄燃料への移行こそが、気候変動を最大限に改善するだけでなく、船員や港湾労働者の健康にとっても最善の策であることが示された。それに代わる全ての選択が、労働者の観点からは懸念を残すものである。排ガス浄化装置を船舶に装備すれば、ただでさえ負担の多い乗組員の仕事が、さらに増えることは間違いない。また、スラッジの廃棄に関して余計な責任を引き受けることにもなるし、機器の操作をうっかり誤り、排ガスの低減に失敗した場合、船員がその責任を追及される恐れも出てくる。世界中で低硫黄燃料への移行が進めば、大気の質は向上し、船舶はよりクリーンになり、海運業界が責任を真剣に受け止めているという前向きなメッセージを発信することにもなろう。今、IMO内部では、そうした方向へ潮目が変わりつつある。海運業界や精油業界も、確信をもってこれに続いて欲しい。
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ケイティ・ヒギンボトムは、ITF船員・水産・内陸水運部会の上級アシスタント。
統計に基づく情報

■交通運輸産業は、世界で生産される石油の6割を使用している。
■全世界で発生する二酸化炭素の4割は、石油製品に由来する。
■全世界で発生する二酸化炭素の3.4%が、航空機と船舶の燃料に由来する。
■海運産業で使用される燃料の6割が、石油精製のプロセスで発生する副産物の残渣燃料、つまり、「精油タンクの最底辺にある部分」である。

テクノロジーの進歩
1970年代の2,500TEUコンテナ船と、2007年に建造された10,000TEUコンテナ船を比較してみると、同じ速度で航行した場合、消費される燃料は、ほぼ同じ量だという。つまり、2007年に建造された船舶は、1970年代のものに比べ、1TEUあるいは1マイルごとの燃費が、4倍改善されたことになる。

人体に及ぼす影響
船舶からの排ガスについて、以下の健康リスクが指摘されている:
■硫黄酸化物(SOx)
−健康な人でも気管が刺激され、不快感を感じ、咳がでる。
−喘息患者の場合、深刻な呼吸困難に陥る。
−二酸化硫黄への暴露と死亡率の間には、大きな相関関係がある。特に呼吸器系及び心臓血管系障害からくる死亡を誘引する。
■窒素化合物(NOx)
−目、鼻、喉、肺などへの刺激。
−アンモニア、水蒸気、大気中の汚染物質と反応し、他の化学物質を発生し、これが時に細胞の突然変異や癌化をもたらす。
−気管に中毒症状が出て、炎症や喘息を引き起こす。
−先天性欠損症を引き起こす可能性がある。
■粒子状物質(PM)
−肺機能障害。
−気管支炎や肺気腫などの呼吸器疾患の悪化。
−早死と関係がある。
−心肺の疾患や肺がんによる死亡率のリスクの急激な上昇と関係がある。
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INDEX
メキシコの反労組の動き
メキシコ航空客室乗務員組合の闘い
総選挙を終えて
オーストラリアの交運労組が、明るい展望を語る
信頼できる交通運輸をめざして
欧州の「信頼」プロジェクト
フランス鉄道労働者の闘争
サルコジ改革に反旗を翻して
ネパール
17周年を迎えるネパール交通運輸労組
海運と温暖化ガス
解説
ザンビアの鉄道労働者
生き残りをかけて
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勤労生活:海難救助
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