2008年4〜6月 第31号 |
■読者の声 |
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「新しい南アフリカ」とは無縁の人々
南アフリカのインターケープ社の長距離バスで乗客係をしていた5年間を、ケネルウェ・ツェガラが振り返る。ツェガラは、南アフリカ運輸合同労組(SATAWU)のインターケープ職場代表および組合のインターケープ担当書記として活躍したが、2007年10月、インターケープ社のリストラで解雇され、組合からも抜けた。
医療が提供されない、妊婦が妊娠7ヵ月まで長距離バスの乗車勤務をさせられる、男性と異なり女性には昇進も昇給もないなど、これまでの様々な問題をめぐり、ストを実施した。
インターケープ・バス会社の乗客係の9割は女性だが、男性が昇進していく一方で、女性は昇進できない。「乗客の荷物は君には重いだろ」「機械が故障したり、タイヤが破裂しても、直せないだろ」と男性は言う。本当は、女性に関わってほしくないだけだ。運転手になりたいと思う女性は多いが、運転テストを受けようとしたら、「女に運転は無理」と追い払われた、という声は多い。
長距離バスの乗客係は、妊娠しても長期間、働き続けなければならない。組合は、妊娠した2人の乗客係を非乗務の仕事へ異動させるよう闘ったが、異動が許されるのは病気の場合だけだ、と会社はこれを拒否した。当事者の乗客係の意見は聞いてもらえなかった。結果的には、2人とも流産してしまった。そのうちの1人の主治医は、こうもらした。「原因はケープタウンまでの長距離乗務から来るストレス。もう一人の女性の流産も同じでしょう。彼女はダーバンまで行っていたそうだから」 |
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お腹の子を心配しながら
私自身も妊娠7ヵ月まで、長距離バスで乗客係を続けた。ヨハネスブルク−ケープタウン路線(ウピントン経由の1,700キロ)では、午前4時30分の報告開始から翌日の午前7時まで、一日中、働き続けた。プレトリア−ケープタウン路線(ブルームフォンテーン経由の1,460キロ)での乗務時間は、午後2時から翌日の午後2時までだった。お腹の子供のことが、心配でたまらなかった。椅子に腰を下ろしては、「赤ん坊のことを、第一に考えなければ。でも、お金も必要だから、仕事は続けなければ」と心の中で葛藤したものだった。「乗客が要求してくること、全てに対応することはしまい」と固く決意した。
長距離バスの運転手は2人乗務だが、乗客係は1人しかいない。しかも、運転手には寝台も用意されている。乗客係も睡眠を取ることは可能だが、実際には2時間寝られればいい方だ。運転手の様子を確認したり、彼らにコーヒーを出したり、フロントガラスを掃除したり、乗客の要望を聞いたり、と仕事は多い。停留所に止まるたびに乗客名簿をチェックして、誰がバスを降り、誰が乗ってきたかを、逐一確認しなければならない。乗客を置き去りにしたら大変だからだ。終点のケープタウンに到着しても寝る時間はなく、すぐにダーバンなどに向けた1,755キロの旅へ出発しなければならない。
私は観光業の資格を持っていて、旅する仕事をしたい、とずっと思っていたが、それほど楽しい仕事ではなかった。家族や子供と過ごす時間も取れない。心身両面できつい仕事だ。会社は非人間的で冷たく、乗務員の勤務状況など、理解しようとしない。
インターケープ社の男性社員は、女性同僚が怒りで一杯になっていることを知り、ショックを受けていた。組合に加入している男性ドライバーは女性の同僚に同情的で、組合の会議や会社との話し合いでも、女性労働者の問題を提起してくれた。
妊娠6ヵ月頃のある朝、とても気分が悪かった。それでも会社は、間もなく出発するからバスに乗るよう、私に言った。すると、運転手が、「彼女を乗せる気なら、俺は運転しない」と言ってくれた。胸が熱くなった。女性労働者の置かれている状況を理解してくれる運転手もいるのだ。 |
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屈辱的扱いを受けて
一部の路線では、自分の身は自分で守る覚悟が必要だ。特に新任の乗客係は、気力を挫かれることが多い。罵声を浴びせてくる乗客もいる。コーヒーや紅茶を求めてくる乗客に、書類を書き込む間、少しお待ちください、と言えば、「礼儀を知らない」とか、「教育がなっていない」などと罵倒される。ガウテングには黒人のドライバーが多いが、その他の地域では、ドライバーは大抵、白人かカラードだ。乗客の目の前で、わざと私たちを困らせる、無作法で人種差別的な白人運転手もいる。会社も、一部の運転手のこうした行状を認識してはいるものの、放置している。インターケープ社の経営陣は、全員、白人だ。「新しい南アフリカ」とは無縁の、旧態依然とした人々だ。
ドライバーの8割は、変質者といっても過言ではないかもしれない。ある女性の同僚が私に電話してきて、同じ長距離バスに乗務していた運転手が彼女にメールを送ってきた、と話してくれた。メールには、「シフトが終わったら、俺の寝室に来てくれ。楽しくやろうぜ」と書かれていたという。特に新任の女性には、こういうことがよく起きる。そこで男性に立ち向かえば、どういう人間か彼らも理解して、「この女は、やめておこう」と思うようだ。
インターケープ労組の組合員と話をした時、私はこの問題を提起して、「仲間を困らせるようなことはしたくないけれど、こういう事例を知っている人がいたら、ぜひ報告して欲しい」と言った。その場での議論は、それだけに止めた。それだけ言えば、組合員も分かると思ったからだ。しかし、それから程なくして、また女性の乗客係から苦情の電話があった。私は解雇されてしまったが、今も女性へのこうした暴行が続いているのだろうと心配でならない。問題を解決しようと立ち上がる者は、誰一人いない。
会社が、夜勤明けの労働者に、帰宅の交通手段を提供していないのも問題だ。ある女性は、夜勤明けに銃で撃たれて全治4ヵ月の傷を負ったが、会社はこの女性を乗務から外してくれなかった。午後10時に仕事を終えた予約センターの事務員が暴行を受けた事件もあったが、その時も会社の応対は、「夜勤明けの従業員のために交通手段を提供する予算などない」というものだった。
また、長距離バスのトイレに使われている青色の化学薬品についても、会社に苦情を申し出た。私自身も排尿時にかゆみをずっと覚えていたが、ある時、他の女性の同僚も同じ悩みを抱えていることが分かった。「長距離バスのトイレは使いたくない」と彼女は言った。私たちは、この問題も会社に提起したが、会社は「停留所のトイレを使えばいい」と一蹴し、化学薬品を除去することはなかった。 |
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昇給もなし
運転手には昇給もあったが、乗客係には昇給の機会もない。給料を上げて欲しいと会社に掛け合えば、「雇ってもらっただけでもありがたいと思え。仕事が嫌なら、いつ辞めてもらってもいい」と言われる。しかし、運転手の中には、女性の乗客係を支援してくれる人もいた。「運転手には、乗客の面倒を見たり、トイレを清掃したりする仕事はできない。乗客係がいなければ困る」と言ってくれた運転手もいた。それでも私たちの賃金は上がらず、それどころか解雇された。
会社は、私たち全員を解雇し、女性たちが再び会社に応募せざるを得なくなるよう仕向けた。そうすることで、私のような「腐ったりんご」を摘み取りたかったのだ。終身雇用契約を結ぶ私たちを辞めさせたかったのだ。会社はいつも、「コスト削減のため」と言うが、運転手は契約雇用に切り替えられたりしない。女性の乗客係の仕事だけが、契約労働に切り替えられている。
インターケープ社で労働組合を立ち上げるために半年間闘い、組合を設立したが、10ヵ月で消滅してしまった。この組合で、私は職場代表を務めた。状況は改善へ向かうかに思われたが、私たちは解雇され、それまでだった。10月22日に1ヵ月の停職処分を言い渡され、10月23日の査問会で解雇された。会社は、私たちのストを、「違法ストだ」と言った。
この問題は、労使問題調停委員会(CCMA)に持ち込まれ、その後、不当解雇問題として労働裁判所に付託された。しかし、労働裁判所の審問開始には、2年かかると聞いている。いかに厳しい状況か、お分かりかと思う。私にだって、養わなければならない子供が2人もいるのだから。
インターケープのような大企業が私を雇ってくれると知った時、自分が訓練を受けてきた分野で働けることを幸運だと思った。しかし、入社してから行き詰った。今の状況は私にとって、より良い境遇へステップアップするための機会なのかもしれない。
グレイハウンド・バス社の方が、状況はましなようだ。グレイハウンドで働く女性労働者も文句は言っているが、会社は妊娠した女性を乗車勤務させたりはしない。また、労働者の解雇も、しにくいと聞いている。それは、グレイハウンドに組合があるからだと私は思う。グレイハウンドは労使交渉評議会にも参加しているが、インターケープは参加していない。
インターケープの経営陣は、「組合に入れば、いつか、こうなると警告しただろう」と私に言った。でも私は、組合に入ったことを後悔していない。別の企業に勤めていれば、今頃は、もっとうまくいっていたかもしれない。今後、また別の企業で勤め先が見つかることを願っている。願わくば、交通運輸産業で働き続けたい。 |
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セリア・マザーによる、ケネルウェ・ツェガラのインタビュー |
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カナダの港湾保安政策に組合が反対する理由
トム・デュフレス、デボラ・コーエン
カナダ西海岸の港湾労働者は、国の安全保障政策をめぐり、前線に立って、連邦政府と、にらみ合いを続けている。海運保全許可(機密情報利用許可)プログラム(MTSCP)の実施期限であったはずの2007年12月が過ぎ去った。連邦政府はカナダ最大かつ最も取扱い量の多いバンクーバー港を、一時的にMTSCP実施の対象から外さざるを得なくなった。
実際のところ、バンクーバー港ではMTSCP実施が延期されたため、連邦政府は港を閉鎖せずに済んだ。当局は港の閉鎖は何としても避けたいと思っただろうが、政府自身が策定した保安規則により、港の閉鎖が必要になろうかという状況になった。連邦政府の保安政策では、カナダの全ての港に対し、新しい港湾保安プログラムに従うことが求められている。すなわち、全ての港湾労働者がMTSCPに登録することが要件となっている。しかし、ILWUカナダの組合員は、このプログラム自体に反対しており、プログラムの将来は見通しのつかない状況になっている。
しかし、今年1月、カナダの連邦政府は、ITFに加盟するILWUカナダに対し、組合員にMTSCPへの登録を呼びかけるよう命じた。このため、組合が法的措置に訴えることにより、最終的結論を出さざるを得なくなった。
これは、憲法に定められた労働者の権利をめぐる闘争である。MTSCPは市民権、労働権、プライバシー権をむしばむものであり、カナダの港の保安確保に関して明確な進展が望める措置とも思われない。労働者の審査を行い、疑わしい経歴をもつ労働者の港湾への立ち入りを阻止することを目的としている。
MTSCPの下では、カナダの保安関係省庁が、労働者に関する情報を外国政府と共有することが可能になる。「ある程度、疑わしい」と思われた人物を停職させることも可能となるし、人種に基づくプロファイリングが制度化される恐れもある。一方、独立した異議申立てプロセスは、提供されていない。最近、裁判所が出したある判決から、団体協約はカナダ人権憲章(訳注:カナダ憲法の中で国民の基本的人権について言及した箇所)の下に保障される権利であることが明確になったにも関わらず、これとは逆行する形で、団体協約をないがしろにするMTSCPを導入しようとしている。MTSCPにより、些細な刑事問題すら、国家安全保障の問題に発展しかねないし、市民権の境界線を曖昧にし、基本的権利を侵食するものである。
言うまでもなく、マハール・アラール氏(訳注:テロリストの容疑をかけられ、シリアへ国外追放されたシリア系カナダ人)のケースに見られたように、MTSCPにより、保安関係省庁が人種差別的な市民権の侵害に公然と乗り出すことにつながるだろう。現在、カナダ騎馬警官隊(RCMP)の合法性そのものが連邦委員会から問われていることを考えても、権力の濫用を懸念する声は根拠のあるものといえる。
連邦政府は、MTSCPにより、港湾の保安は、より確実になるとしている。しかし、MTSCPは、集団安全保障の名の下に、9.11テロ後に導入された市民の権利と自由を侵害する一連の保安対策の一つにすぎない。カナダC36法案に始まり、第三国協定、現在も継続している「北米における安全保障と繁栄のパートナーシップ構想」に至るまで、これまでの安全保障政策は、国外からの脅威に対応すると同時に、労働権や市民権を再編成し、国内で市民権を再定義することを中心に展開されてきた。
実際、ILWUカナダは、2003年にMTSCPが初めて提唱された時から、これに反対している。政府や産業界の利害関係者とともに、時間をかけてMTSCPに代わる対案を検討してきたが、2007年、政府が突然、MTSCPを推進し始めたため、組合はこれに反対する他なくなってしまった。 |
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抵抗
ブリティッシュ・コロンビア州の海運関係企業は、当初は長い間、MTSCPに反対しており、欠陥の多いMTSCPに異議を唱えるために組合と協力すらしていたが、今ではMTSCPの実施を守らせる立場に変わった。連邦政府はMTSCP実施の徹底を図る責任を企業に移行し、この問題を政治問題から外し、目の前で衝突が起きるのを避けようとしている。
その結果、会社は、労働組合がMTSCPへの登録を拒否し、非合法な団体行動を取ったと責め、この問題は法廷で争われるに至った。ILWUカナダは、労使関係委員会で、MTSCPに対する異議を唱えた。一方、カナダの司法長官は、本件の検討を連邦裁判所に付託した。
企業の広報担当者は、市民の権利と自由を守ろうと立ち上がったILWUカナダの組合員を、「反抗的港湾労働者」と書き立てたが、MTSCPに反対の声を上げたのは組合の役員だけではなかった。カナダ市民の自由協会は声明文を発表し、MTSCPにより、市民権や労働権が侵害される可能性があるとして、MTSCPを非難した。港湾産業への依存度が高いブリティッシュ・コロンビア州の3都市の市議会では、連邦政府にMTSCPの書き直しを求める法案が可決された。
同州の海運使用者協会、クルーズ船の船主、カナダの主要港湾の保安主任担当官ですら、MTSCPを公然と非難している。ある国際海運雑誌の最近の論説記事では、「プライバシーを侵害する恐れのある、効果のない保安対策への勇気ある対応」として、組合の立場が賞賛された。 |
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一般の議論
MTSCPが市民権や経済権の判例となるためには、一般市民による熱心な議論が必要だが、実際のところ、カナダ国民の大半はMTSCPを知らない。連邦政府は、国民に、MTSCPのことを故意に知らせてこなかった。そうすることで、カナダ西海岸の港湾労働者を孤立させ、弱体化させようとしてきた。カナダ運輸省は、MTSCPを政治的な法律ではなく、高度に技術的な法律と捉えている。
「安全保障」をめぐるこの闘争も、連邦政府があくまでMTSCP遵守を主張し、裁判所が判決を出せば、行き着くところまでいくことになろう。どのような結果になろうとも、ILWUカナダは、港湾の民主主義のため、また9.11テロ以降の安全保障政策の名による顕著な市民の権利侵害という流れに逆らって立ち上がったことを、誇りに思う。真に意味のある保安の概念は、労働者の権利を侵害することからは、決して生まれてこない。 |
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トム・デュフレスは、ILWUカナダの委員長。デボラ・コーエンはトロントのヨーク大学で教鞭を取っている。 |
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