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2004年10〜12月 第17号
■新統合条約の採択に向けて
 
新統合条約の採択に向けて

国際基準が改善されれば、過酷で危険な漁船で働く何百万人もの労働者の生活に変化がもたらされるだろう−ルーク・デマレ

6月に開かれた国際労働機関(ILO)年次総会で、世界で最も危険な産業の一つといわれる漁業の安全および労働条件の向上に向けて重要な第一歩が踏み出された。
ILO総会の漁業委員会で、漁業部門の統合条約の設立を目指す第1回会合が終わった。この統合条約が採択されれば、1920〜1966年に採択された、既存の漁業関連条約5つと勧告2つに取って代わることとなる。
来年総会での審議を経て、順調に採択に至れば、国際貿易額500億ドルにのぼる漁業部門で働く漁船船員の9割をカバーすることとなる(既存の条約はたった1割)。
多くの国に批准、履行されるよう、柔軟性に富む条約が採択され、漁船船員にとって意義ある基準が確保されることが期待されている。新条約には、(死亡)事故率を減らすための新安全衛生規定、遵守・施行に関する新規定や、旗国およびポートステート(寄港国)の役割強化なども盛り込まれることになっている。
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変化が必要

ILOによると、世界の捕獲漁業、養殖業に従事する人は3,500万人。その大半は途上国(アジア83%、アフリカ9%、南米2.5%)、残りは北米、欧州、旧ソ連などの魚輸出国の労働者だ。
世界の漁船隊は甲板船130万トン、無甲板船280万トンで構成され(そのほとんどが途上国の漁船)、総漁獲高の45%を小規模漁船が占めている。
ILOによると、漁業は世界で最も危険な産業の一つである。漁業全体の正確な事故数は明確ではないが、10万人に150〜180人の割合で死亡事故が発生している。漁業、養殖業および水産加工業を合わせた年間死亡者数は2万4千人(ILO推定)で、全産業中、最悪だ。死亡事故以外の事故数も年間2,400万件にのぼっている。
漁船船員と漁船所有者との雇用関係は陸上労働の雇用関係とは異なるばかりか、他の海上労働とも異なる点が多い。陸上労働と同じように、より安定した、正規の雇用契約を漁船船員に締結させようとする試みが成功した事例もあるが、自営漁業者の場合や、正規または臨時の従業員を1〜2人しか雇っていない小規模漁業者の場合など、「雇用契約」の恩恵をこうむっていない労働者が数多く存在するのが実態だ。また、パートタイムで漁業を行い、残りの収入を農業などの副業で稼いでいる人も多い。
途上国の場合、沿岸地域に産業としての漁業がかなり発達している場合もあるが、漁民の大多数は小規模漁業に従事している。自営や家族経営の場合もあれば、昔ながらの伝統的な取り決めを船主と結んでいる場合もあるし、船主と特に強い関係をもたない日雇いの場合もある。
先進国でも非正規あるいは日雇いの雇用契約で小規模漁業に従事する労働者は多い。労使関係が法律で整備されている国ですら、漁業特有の漁獲分配の取り決めが存在するために、このような法律の枠外に置かれることもある。そのため、陸上労働者の多くが享受している、失業保険や健康保険などの福利厚生を得ることは難しく、雇用契約が口頭でなされている場合は、賃金問題が発生しても救済が困難になっている。
通常、大手の水産会社の雇用関係はもっとしっかりしているが、漁獲高に応じて賃金(の一部)が支払われるケースも依然として多い。しかし、労働組合が存在し、団体協約に基づいて賃金が支払われているケースもある。
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漁獲分配システム

漁業の伝統的な報酬システムは漁獲の分配だ。漁獲物の売上金から経費を差し引いた純利益が漁船所有者と乗組員の間で分配される。
漁獲高の分配だが、最低賃金が保障されている場合もある。乗組員の収入は漁獲高や純利益に左右されるが、利益の分配は必要経費を差し引いた後ではなく、差し引く前に行われるのが普通だ。
漁獲高に応じて、定期的な給与と分配報酬を受け取る場合もある。雇用契約や関連法規、あるいは団体協約で規定された固定給与に加えて、漁獲物の総売上高に応じた報酬が支払われるしくみだ。
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海の労働条件

漁業には陸上労働には通常存在しないリスク、つまり、職場が静止していないことから派生するリスクが伴う。魚を下ろしたり、内臓を除去したりといった、陸上での水産業務も包丁の扱いを誤れば事故につながるが、漁に出ることはその倍以上に危険だ。悪天候時はなおさらだ。漁船の乗組員に定時の労働時間などなく、いったん出漁してしまえば、船長が大漁に満足するまでは休憩もままならない。漁を終えた後も、港に戻る間に甲板清掃や見張りの仕事をこなし、港に着いたら釣った魚を下ろし、次の漁へと備える。身体を休める時間などほとんど残っていない。
数ヵ月にわたって漁が長引くこともある(特に遠洋漁船の場合)。その間、船内は乗組員にとっての職場となるだけでなく、居住空間となる。船内の居住設備は漁船によって異なり、近代的な設備の整った個室、食堂、娯楽スペースなどが完備されたものから、窮屈で不衛生なものまで実にさまざまだ。乗組員にとって、食事や飲料水の質も重要だが、医療体制や自宅に電話がかけられるかどうかも、特に遠洋航海の場合は大きな意味をもつ。
非常にシンプルな小型漁船の生活は、大型漁船の生活はもとより、甲板付の小型漁船の生活とも全く異なる。各漁業部門にはそれぞれ独自の問題が存在する。漁船船員の生活は平均的商船船員の生活とも異なる。仕事が異なるだけでなく、漁船の乗組員は物理的に海にさらされる機会が多い。海洋生物と直接格闘する危険は言うまでもないだろう。
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小規模零細漁業

伝統的に、零細漁民とそのコミュニティーは漁業のみで生計を立ててきており、農業と似ているところがある。途上国の漁民のほとんどが最低生活水準、あるいはそれを下回るレベルでの生活を強いられている。漁獲物の処理のまずさ(商品にならない魚の増加が低価格を招く)、漁獲や漁価の変動の問題も彼らを悩ませている。
大型漁船や先進国の漁船との競争にさらされることもある。零細漁民は労働組合というよりは地域の協同体や共同組合への所属意識が強い。基本的な衛生問題や収入の安定の方が彼らにとっては優先順位が高いのだ。
小規模漁業や漁村特有の問題は98年5月のILO漁業労働条件委員会でも議論された。特に、途上国の漁船員向け融資不足、高金利、中間業者の搾取などの問題が取り上げられた。
大型漁船船員と共通の問題が全くないわけではない。しっかりした取り決め、安全衛生対策、船内の医療体制や社会保障の強化の必要性などは、大型漁船船員も抱えている問題だ。しかし、彼らには彼ら特有の懸念、優先事項がある。
一方、多数の移民労働者が不法・無規制・無報告(IUU)漁船に乗り組んでいる。
このように複雑・多様な漁業部門の問題を政労使で議論をする際には、当然、困難が伴うこともあった。しかし、最終的には、多くの初期課題が解決されてきた。
新統合条約設立に向けた第1回会合で、安全衛生に関する新たな条項や、条約施行のための旗国およびポートステートの役割強化などが新たに合意された。
さらなる議論と新統合条約の採択は2005年の第93回ILO総会での第2回会合で行われる。
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ルーク・デマレはILO労働者活動局情報部長。本稿は2004年6月のILO総会に提出されたILOの報告書「漁業部門の労働条件」に基づいている。
新統合条約の意義

ルーク・デマレ

「既存の条約を刷新し、批准しやすくしなければならない。来年のILO総会で採択が予定されている新統合条約には安全衛生や社会保障の条項も盛り込まれる」とILO幹部のクレオパトラ・ドンビア・ヘンリーは言う。漁業関連の既存のILO条約は古く(最新のものでも1966年に採択されている)、産業の動向を反映していない。批准国も少なく、最も批准の多い条約でも29ヵ国にとどまっている。
新統合条約は漁業全般にみられる過酷な労働条件のほか、小規模沿岸漁業や大型遠洋漁業の問題にも対応し、世界の漁船船員の9割をカバーする(既存の条約はたった1割)ものとして期待されている。「全ての労働者にディーセント・ワーク(人間らしい仕事)を」というILOの目標に則って、厳しい環境で働く漁船船員の保護を目指す。
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役割と責任

旗国である加盟国が国内法を通じて条約履行に責任を負う。履行を確保するために、船主・船長の役割を明確化している条項もある。特に画期的なのは、船内の状態が危険あるいは非衛生的なことが明らかな場合に寄港国(ポートステート)の介入を奨励する条項が挿入されたことだ。これもまた、ILOの「ディーセント・ワーク」政策−自由、平等、安全や人間の尊厳が守られる環境で人間らしい生産的な仕事をする機会の促進政策−に見合ったものだ。
新統合条約準備委員会の労働側スポークスパーソン、ピーター・サンド・モーテンセン(SiD、デンマーク)は、新統合条約で陸上労働者と同じような社会保障が漁船船員にも与えられるべきだと指摘する。労働者グループとしては、第1回会合の結論は15m未満の漁船には適当といえるが、15〜24m、あるいは24m以上の漁船には追加条項が必要だと考えている。新統合条約が真に労働者の懸念に応えられるかどうかの正念場となるのが来年の第2回会合だ。「既存条約の保護規定を削除したり、骨抜きにしたりするつもりはないという政府および使用者側の声明に希望を見出している」と労働者側総会副議長のギヨーム・アティグベは述べている。
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ILO総会労働者グループの見方

労働者グループは、漁業の現実を反映し、他の漁業関連条約を補完する、バランスのとれた条約の採択を求めていた。つまり、画一的なアプローチはうまくいかないとの考えに基づき、適用範囲がグローバルで、小規模漁業にも適用可能な柔軟性をもち、既存のILO条約の大型漁船用保護規定を維持する、バランスのとれたアプローチを目指した。
船員関係の既存のILO条約の中には、漁業部門への適用を明確にしている条項もある。この中には重要な保護規定も存在し、実際に多くの船員に享受されている。従って、新統合条約の採択で既存の労働条件がかえって悪化するような事態は避けなければならない。
漁業はILOが指定する危険産業の一つであり、職業安全衛生規定にもこの点が反映される必要がある。また、漁業部門はその規模にかかわらず、ディーセント・ワークが大幅に欠如していることも証明されている。
高い期待に応えるために、われわれに課せられた仕事はたくさんある。そのため、いくつかの主要問題が次回会合に持ち越された。
社会保障はILOの理念を実現するためには不可欠な存在だが、社会保障の要となる「社会保障(最低基準)条約」(1952年、第102号)第77条は、同条約の「海上漁船員」への非適用を明確にしている。この点も新統合条約で対応しなければならない。
居住設備に関する条項の検討は見送られた。居住設備の条項はもともと技術的な性格が強く、次回会合までに何らかの進展がみられるよう、ILOがふさわしいメカニズムを構築することで合意がなされた。海上で長い時間を過ごす漁船船員にディーセント・ワークを保障するためには、近代的な居住設備基準の採択が不可欠だ。
漁業委員会の報告書には委員会での激しくも率直な議論が反映されている。委員会での合意事項を次回会合でさらに発展させ、新統合条約に寄せられた国際社会の高い期待に応えたい。新統合条約が多くの国に批准され、漁船船員の日々の仕事、労働環境が真に改善されることを望んでいる。
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第92回ILO総会における労働者グループの閉会の挨拶(抜粋)
 
 
INDEX
客室乗務員にライセンスを
客室乗務員組合がライセンス制の設立を要求する理由
新統合条約の採択に向けて
国際基準が改善されれば、漁船員の生活も向上するだろう
港湾戦争
欧州港湾の未来をかけた歴史的闘争を終えた港湾労働者は、新たな闘いに挑む心構えがあるか
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