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2004年10〜12月 第17号
■港湾戦争
 
港湾戦争

欧州港湾を自由化しようという新たな企ては、昨年の指令原案の歴史的否決によって勢いを得た港湾労組の猛反対に会う可能性がある。ピーター・タンブルが港湾労働運動の進化の驚くべき段階を振り返る。

2000年1月、欧州委員会が港湾市場自由化指令を許可するなら、ITFは間もなく「欧州港湾戦争」を起こす用意があると警告を発していると海事新聞が報道した。
同指令案は、船が港に停泊している間、船社が船員に荷役をさせることを許可する「自家荷役(セルフハンドリング)」を規定している。また、船社およびターミナルオペレーターも、未登録の港湾労働者を派遣会社などから調達することが可能になる。
その結果、無資格の、明らかに安価な労働力が導入されることになり、安全衛生基準の低下を招くとITFは考えている。今後は、船社も自社の船舶の荷役を行うのに、「便宜港湾」を利用するようになるだろう。数十年にわたり、海運産業を荒廃させてきた世界基準の低下が、今や伝統的に組織労働者の牙城であり、非常に有利な労働条件を維持してきた欧州港湾産業にも拡がってきている。
欧州指令闘争において、港湾労組は国境を越えた組織化と、一般組合員を「政治」キャンペーンに参加させるという、2つの課題に直面することになった。欧州レベルだけでなく、世界レベルで連帯行動を取らなければ、国内の港湾雇用制度を維持することはできないということに、港湾労働者は気づき始めた。
しかし、当初の欧州港湾戦争は、主に言葉の上での闘いだった。つまり、指令案の条項の文言をどうするのか、何を規定に加えるかに議論が限られていた。2000年7月、ITFの欧州組織であるETF(欧州運輸労連)は、欧州委員会から港湾市場自由化指令に関するアンケートを受け取り、10項目の質問にわずか2週間で答えることを求められた。ETFが欧州委員会から指令に関して連絡を受けたのは、1999年以来のことだった。ETFは、加盟組合と協議するため、もっと時間が必要だと主張し、2000年9月に正式な回答を出した。
しかし、2000年11月には、既に指令案が出回るようになっており、ETFと欧州委員会の最初の公式会合は、指令案が公開されるわずか1ヵ月前の2001年1月に行われた。ETF側は、この第1回会合の際、自家荷役条項を削除するよう要求し、委員会側から確約を得たと信じていたが、実際の指令案にはETFの要求が反映されていなかった。
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労働者の反応

屈辱的とまでは言わないものの、ITF、ETF、個々の港湾労組が欧州委員会の協議プロセスを完全に不適切であると非難したのも無理は無い。今回の委員会の態度は、社会的対話と団体交渉を通じて、社会パートナーとの合意に基づいた共同の解決を探るという、委員会の通常の姿勢から大きくかけ離れていたからだ。他の交通運輸産業に関しては、使用者と労組で構成される合同委員会の必要経費は欧州委員会が負担しており、社会的対話のプロセスや妥当な解決策の決定についても、合同委員会が中心的役割を果たしている。
この問題に対するITFのアプローチは、自家荷役の問題と基準以下港湾、すなわち「便宜港湾」の出現の可能性の問題に焦点を絞るというものだった。これにより、欧州の港湾を連帯させる共通項ができあがった。後に、ケース・マーギスITF港湾部長は当時を振り返り、「特定の問題に関して大抗議運動を起こす必要があった」と述べている。
大抗議運動を起こす前に、まず、組合役員と一般組合員の双方を教育することが最優先事項となった。ITF、ETF、各加盟組合が奮闘し、組合員はもとより、その他の利害関係者に対しても、この問題への認識を高めるよう努力した。
ETFやITFに加盟する多くの組合がそれぞれの政府や国会議員、欧州委員会に連絡を取り、指令案に異議を唱え、港湾産業全体が合意できる解決策を見出すための社会的対話を促した。2001年4月の欧州政策・運輸・観光に関する欧州議会会議では、欧州指令案が激しい批判の的になり、自家荷役に関する条項が削除されるかもしれないという兆しが見え始めた。
欧州議会の運輸委員会は、指令の翻訳と協議により多くの時間を費やすため、2001年10月に予定されていた投票を延期すると決定した。しかし、ITFは、2001年9月24〜28日の基準以下船に反対する年次キャンペーン(FOC船反対行動週間)の一環として、行動日を設定することを既に決定していた。
FOCキャンペーンと港湾指令反対の行動日を結びつけたことは、船員と港湾労働者の連帯の強化につながり、同時に欧州委員会の指令に従って船員に荷役をさせる船社は、労働者の猛反撃に合うだろうことを強調することができた。
FOCキャンペーン中の9月25日、港湾労組は作業を停止して2〜3時間の職場集会を開き、一般組合員とともに、指令がもたらす状況について話し合った。ITFはリーフレットや教育資料などを作成し、全加盟組合を通じて港湾労働者に配布した。しかし、どの問題をキャンペーンで取り上げるかについては個々の組合の自由に任せた。こうしたアプローチを取ったのは、組合ごとに指令の影響が異なるからだ。ある組合は、港湾指令についての議論をゼロから始めなければならなかったが、一方で、指令のもたらす影響を一般組合員により深く理解させることに集中すべき組合もあった。
職場集会はベルギー、デンマーク、フィンランド、オランダ、ポルトガル、スウェーデンの全主要港で行われた。ギリシア、アイルランド、イタリア、スペイン、イギリスでも、一部の港で職場集会が行われた。ITFは公式文書の中で、この時期は「学習段階」であり、敵に対する警告の段階であったと述べている。しかし、ITF内部では、将来の全欧州的行動を準備するための絶好のチャンスとしてこの行動日を捉えていた。多国籍企業が自家荷役の権利を確保しようと躍起になる中、それに対抗するための全欧州的団結はもはや不可避に思われた。
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船社を標的にする

欧州議会の運輸委員会が最終的に修正港湾指令を採択した時、社会的対話という土台なしに協議とコミュニケーションを重ねても、港湾指令の根本的な修正にはつながらないのではないかというITFの疑念が現実のものとなった。修正指令案は、自家荷役条項を依然として包含していただけでなく、自家荷役の定義を拡大解釈して、貨物の荷揚げと荷下ろしの両方を含むと規定した。
2001年11月14日の欧州議会は、指令から自家荷役条項を削除することを否決した。自家荷役を許可することは、もはや同業もしくは近似産業の業者に適用される許可と「同様の」扱いになった。社会条項の適用についてさらに明確化されたが、それだけでは港湾労働者の不安を取り除くのに十分ではなかった。投票の日、ITFは指令が採択されるなら、全欧州の船主と船社を標的にした「電撃ストに突入する」と警告を発した。
船社を相手にITFの能力を試す最初の機会は2001年の11月の終わりにやって来た。P&O北海フェリー社(P&O NSF)が、ロッテルダムにプールされたSHBの港湾労働者を使わず、船員に貨物のラッシングとアンラッシングをさせると宣言したのだ。ロッテルダムのプール制度は、ハンブルクのGHBなど、ヨーロッパ諸国のプール制度とよく似ている。P&O NSFは、他社が既に船員に荷役をさせているため、競争力を失ったと主張した。
P&O NSFが営業する全ての欧州国家(すなわち、ベルギー、オランダ、イギリス)の船員組合と港湾労組がロッテルダムに集結し、議論した結果、オランダの港湾労組の提案に基づき、12月の第1週にストを行うことが決定した。ITFにとって、これはP&O一社との労使紛争ではなかった。自家荷役に関する欧州委の決定に港湾労働者はあくまでも抵抗するのだという決意をその他の船社や欧州連合に見せつけるための一種のデモンストレーションだったといえる。P&O NSFは、港湾労働者がストに突入したその日のうちに敗北を認めた。
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大動員

2002年には、港湾労働者の活動が連携・拡大し、真の意味での国際連帯が生まれていった。船社が指令の発令を待たずに船員に荷役を行わせると、港湾労働者はその企業を対象とした抗議運動を展開した。2002年11月には、スペインの保守政権が指令案に基づき、港湾民営化計画を発表したため、深刻な争議が発生した。2002年6月には、欧州閣僚会議と時期を同じくして北海とバルト海でストが発生した。
港湾労働者に最終的な勝利をもたらす上で、より重要だったのは、2002年から一般組合員レベルで広がり始めていた非公式のネットワークにより、2003年の爆発的な大動員(デモと欧州全土でのストライキ)の土台が築かれていたことだった。
ケース・マーギスITF港湾部長は、労働者の勢いの高まりを、横軸に時間、縦軸に労働者の認識度をとった折れ線グラフに例えて次のように述べている。「最初はゆっくりと上昇していたが、しだいに労働者がこの問題を完全に理解するようになり、ついに行動を起こすに至った。」
2002年の夏になると、ベルギーの港湾労働者の認識度は既に「行動を起こす」段階にまで高まっていた。ある組合役員が指摘するように、ベルギーのどこで大集会を開いても、港湾労働者から「その問題はよく知っている。具体的な行動について話し合おうじゃないか」と言われたという。ドイツでの作業停止に時期を同じくして、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの港湾労働者がストを行ったため、バルト海沿岸の港湾でも同様の進展が見られた。
EUの立法プロセスにおいて、港湾指令の文言は二転三転し、ITFは終わりの無い「言葉上の闘い」に不満を募らせていた。そこで、指令を廃止するか、さもなければ内容を大幅に修正することを要求し、ETFは、大幅修正とは、自家荷役条項の完全排除を意味することを明確にした。
2002年末、港湾労働者は、再び指令反対行動日の準備を進めていた。2002年11月5日に行われたETFと欧州委の会議および11月6日のIDC(国際港湾労働者協議会)と欧州委の会議はともに状況を悪化させただけだった。
2003年の最終闘争段階では、欧州港湾戦争の中でも最も激しい闘いが繰り広げられた。2003年1月に欧州議会運輸委員会が開かれた際、港湾労働者2万人以上を動員したストライキが欧州全土で行われた。調整が成功したことと、規模の大きさ以外にこのストを最も大きく特徴づけたのは、指令反対運動の中で、ETF・ITFの加盟労組とIDC加盟労組が初めて手を結んだことだ。
運輸委員会の最終討論(2月17〜18日)に合わせ、ETFおよびベルギー港湾労組の主導のもとにブリュッセルで大デモ行進が行われた。3月11日には同様のデモ行進がストラスブールの欧州議会の正門前でも行われた。警察はバリケードを築き、放水砲、催涙ガス、発煙弾などを使用してデモに参加した労働者を追い払おうとした。これらのデモ活動は、指令の第2読会に対する欧州議会投票に合わせて行われたが、投票の結果、ETFとITFにも許容できる内容の修正が加えられることになり、指令は百歩譲って何とか許容できる内容に収まった。
しかし、国際海運会社への市場解放を欧州閣僚らが断念していないことは、すぐに明らかになった。その証拠に、賛成8票反対7票の僅差で調停委員会が承認した文言が11月に欧州議会で投票に付されることになり、一連の欧州港湾戦争の中でも最も激しい抗議運動が発生することになった。2003年9月29日には、ロッテルダムでITFとETFの協力のもと、FNVが組織した9千人の港湾労働者が街頭での抗議行動に参加した。一方、バルセロナでは、IDCの指揮のもと、6千人の港湾労働者が抗議運動を展開した。
これらの抗議運動に先駆け、再びITFのFOCキャンペーンと連動して、「港湾作業は港湾労働者にまかせよう!」のスローガンのもと、9月8〜12日に行動週間も行われた。万が一調停委員会が承認した文言が欧州議会でも承認されるようなことになれば、闘いを継続することをITF、ETF、IDCが確認し合った。港湾労働者が「汎欧州デモ」や「汎欧州スト」という手法を身につけたことで、キャンペーンの地理的規模が拡大しただけでなく、組織労働者が自らの活動を支える上で、より広範な社会的資源を拠り所にできるようになった。万が一、指令が承認されたとしても、これまでより有利な立場で港湾戦争を継続していくことができるだろう。2003年11月の最終投票では、229人の欧州議員が指令に反対し、209人が賛成、16人が棄権した。
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新しい課題

最終投票は、欧州委員会とEU加盟国に対する労働者の未曾有の大勝利、さらに、欧州港湾労働者のグローバル資本に対する大勝利を意味した。しかし、港湾の自由化計画との闘いおよび、グローバル化の負の影響の拡大は今後も続いていく。このトランスポート・インターナショナル17号が編集されている現在も、ETFは、欧州港湾指令に関するいかなる提案についても、労働者の意見が反映されるように努力している。
EUのロヨラ・デ・パラシオ運輸担当委員は、2004年6月にオランダのロッテルダムで開催する欧州海運港湾組織会議で港湾指令の再導入を検討すると発表し、直ちに港湾労働者の猛反対にあった。労働者らは、必要であれば、これまでと同様に抗議行動を取る用意があり、デ・パラシオ委員に同じ過ちを繰り返してもらいたくないと考えていた。
同会議で、ETFは、港湾法案反対闘争を開始した頃の立場を再確認した。「今後も法律に船員による荷役を含めることには反対していく。また、港湾労働者の登録制度を謳うILO第137号条約をEUの全加盟国が適用することを要求していく。さらに、いかなる法律の文言についても、委員会が採択する前に労働者に協議することを求める」とETFのエデュアルド・シャガス海運部長は会議の席上で述べている。
以前より抗議行動の選択肢が広がったため、今後さらに生じてくるであろう港湾産業自由化へ向けた国際動向と闘うにあたり、労働者は以前よりずっと有利な立場に立っている。EU域外の港湾労働者も、欧州で港湾改革指令が成功すれば、船社が日雇い化を世界各国の港港に導入しやすくなると認識している。
「港湾指令原案の否決は、EUで繰り広げられたグローバル闘争の賜物だ。欧州は、便宜港湾に反対するための、継続的かつ長期グローバルキャンペーンの最先端となる」とITFのマーギス港湾部長は語る。
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ピーター・タンブルは、英国カーディフ大学の人材管理・労使関係学の教授。当記事は、タンブル教授の最近のリポート「港湾労働者対港湾指令:欧州港湾戦争」からの抜粋。記事原稿は、タンブル教授(Tunbull@Cardiff.ac.uk)より取り寄せ可能。タンブル教授の世界の港湾改革に関するリポートも、ITF港湾部会から取り寄せ可能。
 
 
INDEX
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