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グローバルユニオン

No.22/2008
■フィリピン船員
 
苦しい。しかし、諦めない

フィリピン人船員の補助的な“英雄”というイメージに、彼らがどのように挑戦しているのかを、学術的調査が解明する。

海上労働者の約3人に1人は、フィリピンの出身である。船員の最大グループはフィリピン人であり、海運産業全体では25万人を超える。サンタクルスのカリフォルニア大学、スティーブ・C・マッケイ社会学部准教授が最近実施した学術的調査では、フィリピン人船員が自分たちをどのように見ているのかに注目している。2003年にフィリピンで100人の船員に対して行われた、1人当たり2時間の面接調査は、船員がどのようにアイデンティティーを形成しているのかについて、啓発的な洞察を含んでいる。
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永い歴史

マッケイ准教授の調査の主眼は、16世紀のスペインのガレオン帆船で強制労働者であった頃からのフィリピン人商船船員の長い歴史に向けられている。米国が1936年に、米国籍船での外国人雇い入れを禁止したため、フィリピン人船員は国際海運から一度は姿を消した。けれども1970年代に入ってから、便宜置籍国への船舶の移籍と安価な労働力の需要に助けられ、労働市場におけるフィリピン人船員の数は爆発的に増加する。米国の基準による英語の訓練を受け、資格証明書を持つフィリピン人船員は、海運企業にとって大きな魅力となった、と彼は語る。
1980年代のある年には、欧州の船で雇用されたフィリピン人船員の数が、2,900人から17,057人に増加した。その後も、世界の船舶に乗り組むフィリピン人船員の数は急速に増え続け、2001年には255,000人を超えた。現在では、国際海運産業におけるフィリピン人船員は、28.1%を占める最大グループを構成しており、毎年20億ドルを本国に送金している。この額は、海外で働く全フィリピン人労働者が公式に送金する外貨総額の約30%に当たる。
しかしながら、人数や経済的貢献度の重要性にもかかわらず、フィリピン人船員は船内で低いランクに留まっている。2000年の数字では、職員は15%にすぎない。
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「フィリピン人らしさ」のイメージ

フィリピン政府は、フィリピン人船員を他の国籍の船員と区別するために、大きな努力を注いできた、とマッケイ准教授は述べる。国は、船員を含む海外労働者の役割をバゴン・バヤニ(国の新しい英雄)と賞賛し、とりわけ船員に対する感謝を表すため、1995年には国の祝日として「船員の日」を制定している。
政府と海外就労産業は、「フィリピン人らしさ」のイメージを形成し、海外労働者の役割を強化するとともに、国家にとって極めて重要な外貨送金が続くよう努力している、と準教授は語る。船員については、伝統的なフィリピン独特の「家族の価値」と男性の役割が強調されている。同時に、男性の攻撃性の行き過ぎを抑制するため、犠牲の精神、事後に得られる満足感、不平を言わずに仲良くやっていく能力などに重点を置いている。
これに対してフィリピン人船員自身は、このイメージの束縛を乗り越えて、船内や労働市場における従属的な立場を意義付けるため、彼ら自身のアイデンティティーを築こうとしている。
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彼ら自身の物語を記録する

面談したフィリピン人船員は、従順で言いなりになる従属的な性格を有するとされることに対し、大体は抵抗を示した。それよりも、彼らの持つ経験、融通性、工夫の才能などで支えられた仕事へのプライドを表現した。
ある機関士は、彼らの手の器用さと熟練度を、次のように強調した。「私が乗っていたある船では、ドイツ人の一等航海士が一緒でした。私たちが修繕しているとき、彼は資料を読みながら指示を出します。フィリピン人船員たちは、彼を見て笑います。なぜなら、簡単な故障なのに資料を読んでいるからです。彼らは資料ばかりを頼りにして、工具を手にしたことがないのです。」
大多数の回答者が強調したのは、彼らが自国にもたらす各種の利益であった。ある船員は、次のように指摘した。「私たちの自己犠牲や、私たちが常に他の人々のことを考えていることで、私たちはバゴン・バヤニと呼ばれているのです。家族を援助することが、私たちの生きがいなのです。私たちは故国の家族に外貨を送金することによって、政府をも支援しています。」
多くの船員は一般の認識が高まることを歓迎しているが、一部には政府が「英雄」などという用語を使うことに批判的な意見もあった。ある船員は、「政府は、私たちを援助してはくれません。私たちをおだてて、船員は貴重なんだ、と思わせようとしているだけなのです」と述べた。
それでも、面接に応じた船員たちは、豊かな経験を持つ冒険家、一家の大黒柱、多彩な性の経験者、親分、父親、そして夫としての地位を高めてくれる「英雄」のイメージの利点を享受していた。
ある船員は、「私の住んでいる地方では、近所の人たちが、海上で暴風雨に遭遇し、命拾いをした物語や、女性についての経験や、その他のいろいろな経験についての話を聞き、その緊張とスリルを分かちたがり、私をアイドルのように扱いがちです」と語った。
彼らの物質的な豊かさも、彼らの地位を高めている。一人の船員は、「船員になることによって、私は家を建て、車を購入し、家財道具を買うことができました。これは、私の誇りです」と、得意げに語った。
船員職業は、よい結婚相手の条件でもある。既に結婚している若い2等航海士は、「近頃の女性は、安定した生活を求めています。彼女たちは、船員が既に安定した生活を手に入れていることを知っているのです」と、述べた。
これらの面接調査によって明らかになったことは、フィリピン国家が奨励する「新たな英雄」ではあるが、従属的な立場の船員イメージに挑戦するための新たな意義を、フィリピン人船員が創造していることである、とマッケイ准教授は述べた。
しかしながら、彼らを助けるこれらの方策が、彼らの従属的な立場を持ちこたえてはいるが、労働市場や船内における搾取的関係や露骨な人種差別に、彼らが正面から挑戦しているわけではない。
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「フィリピン人船員:エスニックな労働市場での男性社会の構築」スティーブ・マッケイ著。人種と移民研究ジャーナル(第33巻、第2号、2007年5月、617〜633ページ)より。
プロに聞く海上生活の印象

筆者:スティーブン・マッケイ(以下に要約したフィリピン人船員の研究者)

「船員であることは、大いに水死の可能性がある有給の刑務所暮らしのようなものだ」
これは、船員たちの間では陳腐な表現かも知れないが、船員自身が海上生活をこのように表現するのを初めて聞いたとき、海上の生活と労働の独特な性格を簡潔に捕えていることに、私は強い印象を受けた。
私が、調査員として乗船したのは、合計2ヶ月半にすぎない。しかし、船員たちが、彼らの生活や家族や仕事などについて、孤独で隔離され、時には危険な環境で、また時には甲板での作業中に語ってくれた言葉によって、私も船員生活を体験することができた。船員たちが熱心に私に話してくれた理由の一つは、彼らの言葉を私が容易に理解することができたためであろう。私の父は機関員として船に乗り、2等機関士になるまで35年以上の海上生活を送り、その後に退職した商船船員だったのである。
遠く離れた父を持って成長した私の境遇は、船員の話を引き出す手がかりとなった。
おそらく、彼らが最も残念に思うことは、家族の生活を支えるために家族と離れなければならないという、残酷な皮肉であろう。船員を選択することによって、息子の最初のことば、娘の結婚式、親の逝去など、家族にとって重要な機会を家族とともに持つことができなくなる。
しかし、このような苦労にもかかわらず、海上勤務と生活の真の意義を見出す方法を、彼らは発見している。風力11の暴風の中の航海や神経質なエンジンの故障、限られた予算の中での美味しい食事をひたすら作ることなど、彼らは船員のプロフェショナルとして、誇りを持って自分たちを「フィリピ人船員」と呼ぶのである。
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