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2005年1〜3月 第18号
■推定有罪
 
推定有罪

船員がテロリストや海洋汚染犯の予備軍として扱われるのを防ぐために船員組合は奮闘を続ける シャロン・ジェームズ

2003年7月、カラチ港入口でマルタ籍のオイルタンカー、タスマン・スピリット号が座礁し、原油が流出した。事故当時、乗組員はパキスタンで9ヵ月間も拘留され、「カラチの8人」として有名になるとは思ってもみなかった。この事件は船員が直面する「犯罪人扱い」の問題を実に明快に示すこととなった。
「カラチの8人」の窮状が明るみになる中で、過去に同様の目にあった人物−プレステージ号の船長、アポストロス・マングラス(スペインで2年間拘留された後、つい最近、自国ギリシャに一時帰国を許された)やエリカ号の船長、カルン・スンダー・マスール(フランス当局に逮捕・拘留された)−にも再び関心が集まった。
このような不必要かつ不当な拘留や犯罪人扱いの問題は政界やマスコミにもとりあげられ、海運業界(船主団体、保険会社、IMO事務局長を含む)も声をあげて反対したほか、ITFも世論喚起に動き出した。
タスマン・スピリット号の事件に関しては、海運界(船主団体と船員組合の両方)と関係各国政府が協力して外交的解決をめざした結果、2004年4月に乗組員8人は釈放された。ITFはギリシャのサルベージ会社、ツァブリリス社からも礼状を受け取った。ツァブリリス社の船長もタスマン・スピリット号の事件で拘留されていた。
タスマン・スピリット号のような事件が再び発生するかどうかは分からない。パキスタン政府が被ったマイナスのイメージや政治的圧力によって、他国政府がこのような対応を控えることになるだろうか?それとも、多額の損害賠償をもぎ取ろうとする政府の欲望が勝るのだろうか?その答えは恐らく新たな事件が発生するまで分からないだろう。しかし重要なのは、船員の犯罪人扱いの問題が今、注目を集めているという事実だ。この問題に対する政府や業界の関心が高い内に、労働組合は政策に影響を与えていく必要がある。
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グレーゾーン

船員の犯罪人扱いの問題を考えるときに重要なのは、特定の領域内で法律を犯した船員と、職業上の任務を遂行しただけで何も悪いことをしていない船員とを区別することだ。事態をさらに複雑にしているのは、両者の中間に位置するケースが存在することだ。船員は時として、法律を犯さなければならない大きなプレッシャーにさらされたり、違法行為を止めさせるのに十分な権限がないといった状況に直面したりすることがある。このような場合、当該の状況が起訴や判決で有利に運ぶこともある。
船員は乗船中、さまざまな容疑で逮捕され得る。(海洋汚染・海上保安・航海の安全に関する罪、暴行・殺人などの公海上の対人犯罪、薬物・武器の密輸、不法入国など。)事故が発生したときに通常、起訴されるのは船長だ。船長は伝統的に、船舶管理に直接関係する、船主の代理人とみなされているからだ。しかし、船長以外の職員が起訴されることもある。不法投棄で機関士が起訴される場合などがその例だ。犯罪の種類や性格によっては、乗組員の誰をもが起訴され得る。
船員が意図的に罪を犯した場合は起訴されても仕方がない。しかし、全てのケースが白黒はっきりしているわけではなく、憂慮すべき傾向が広がっているのもまた事実だ。
プレステージ号のマングラス船長や「カラチの8人」の長期拘留によって、船員の犯罪人扱いの問題に対する関心が高まったのは確かだが、この問題は何も新しいものではない。たとえば、1997年にギリシャ籍のタンカー、アモルゴス号がマラカイボ海峡で座礁し、原油を流出させた時、船長がベネズエラで拘留されている。
しかし、最近新たに導入された海上保安策や海洋汚染防止策を見れば分かるように、ここ数年間、刑事制裁重視の傾向が高まっている。例えば、「海洋航行の安全に対する不法行為の防止に関する条約(SUA条約)」や「船舶の海洋汚染に関するEU指令」は、故意あるいは重大な過失により違法な海洋汚染の原因を作った、あるいは貢献した人物に刑事制裁の適用を可能としている。
さらに、フランスで海洋汚染法が新たに導入されたように、国内での動きも広がっている。ある法律専門家は、最近見られるEUの強硬姿勢は、90年代半ばから海洋汚染事故を追求し、最近では司法省の「船舶イニシャチブ(Vessel Initiative)」でより強硬姿勢を見せている米国に対抗するものだと指摘する。
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原動力

2001年の米同時多発テロ以降、海運業界は大きな変化に直面してきた。港湾、コンテナや船員の移動を対象とする新たな保安対策が導入され、2004年7月1日には「船舶と港湾施設の国際保安コード(ISPSコード)」も発効した。SUA条約も、不拡散に関する犯罪や当局の乗船権限の拡大を盛り込むために改定作業が進められている。
海洋汚染に対する市民の懸念もここ数年、特にヨーロッパで高まっている。原油流出事故で海岸が汚染され、多くの野生動物が犠牲になり、漁民などの生活にも大きな影響が出たためだ。また、環境活動家が効果的なキャンペーンを展開し、マスコミ各社が海洋汚染事故を大々的に報道したおかげで、市民の環境意識も一般的に高まった。さらに、2002年にヨハネスブルクで開催された「国連持続可能な開発に関する世界サミット」では、各国首脳が持続可能な開発と環境保護に力を入れることを約束している。このように、海洋汚染事故に伴う経済的損失や世論の高まりを背景に、各国政府は今、海洋汚染防止のために行動を起こすことを迫られている。
さらに、旗国の国際基準不履行により、サブスタンダード(基準以下)船の被害を受ける可能性のある国は自ら対策を取らざるを得なくなった。「錆びたバケツ」と揶揄される老朽船を排除し、自国に寄港する外国船舶に国際的な安全・社会・環境基準を遵守させようとする「ポートステート・コントロール」制度が沿岸国により創設されたのもこのような事情による。同様に、多くの政府が海洋汚染に厳しい姿勢で臨もうとするのも、旗国の自国船舶に対する監督不足が背景にあると言える。
最後に、国内的、政治的、経済的要因も無視できない。保険会社等から多額の損害賠償金を引き出すことで、やっかいな国内政治問題から国民の目をそらすために船員が利用されることもある。
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板ばさみ

一方、船員に限ったことではないが、積極的・意図的に犯罪に手を染める者がいるのもまた事実だ。しかしだからといって、船内で仕事と生活をする船員が外国での刑事訴追で不利な立場に置かれやすいという現実を軽視すべきではない。船員は事件現場にいるため、警察当局が事件の解決策を模索する中で、容易に拘束されやすい。
サブスタンダード船の船主がダミー会社を何重にも設立して正体をくらませ、責任を逃れようとするその皺寄せが、何の罪もない船員に回っている。また、船の真の所有者が分かりにくいという事実が船長や乗組員の逮捕につながっているとも言える。たとえ船主が判明しても、会社が地球の裏側に存在することも多く、経営者が逮捕・拘留されることは少ない。
サブスタンダードの運航会社の責任回避を助長しているのが便宜置籍制度(FOC)だ。便宜置籍国は船員が外交的保護を最も必要とするときに保護を与えた実績が非常に少ない。プレステージ号とタスマン・スピリット号の旗国(それぞれバハマとマルタ)が国際法上の権利を行使し、国際海洋法裁判所(ITLOS)に乗組員の即時解放を求める法的手続きを取らなかったことを見逃してはならない。この手続きは旗国あるいは旗国の代わりにしか行使できない権利だ。現存する便宜置籍船の数を考えれば、このような事態が船員にとって大きな問題であることは明らかだ。
もう1つ、船員に認められないことがよくあるのが、われわれにとっては当たり前の、手続き上の権利だ。つまり、拘留中の人道的処遇、弁護士との接触、公正な裁判、適切な本国送還などを保障する、防御のための手続きだ。ここでも、船主や保険会社と同様に旗国が果たすべき役割は、特に船員の福祉や法的側面で大きい。
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真の犯罪者

船舶の海洋汚染に関するEU指令やSUA条約の改定草案などに見られるように、政府が新しい法律の中で船員を訴追可能にしようとしているのは明らかだ。事件の関与が疑われる船員を起訴できるようにし、テロや海洋汚染対策に弾みをつけたい、あるいはこれらの犯罪行為の抑止力にしたいとする当局の意図は明白だ。
しかし、これらの犯罪を効果的に取り締まるためには、実際に犯罪をコントロールし、そこから大きな利益を得ている人物を捕まえなければ意味がない。しかし残念なことに、海運業界の不透明性がそれを妨げている。政府が便宜置籍船の問題に本気で取り組み、船主の透明性を確保しない限り、真の犯人は正体をくらまし続けることだろう。
海事保安や海洋汚染問題にかける政府の意気込みは理解できるばかりか、賞賛に値する。しかし、人権や船員の福祉の問題とその他諸々の問題とのバランスが考慮されなければ、政府の保安・安全対策は船員を不必要に犯人扱いするだけだ。立法者は現代海運の現実とプレッシャーを認識しなければならない。例えば、船長や乗組員にコンテナの中身を全て把握することを期待するのは非現実的だ。コンテナの中身を全てチェックするのは物理的に不可能だからだ。また、乗組員の多くが輸送貨物に対する十分な責任や権限を負わされているわけではない。従って、何の権限もなければ、認識すらしていない違法貨物の輸送責任を船員に追求するのは理不尽だ。
サブスタンダードの運航会社がコスト削減のために廃棄物を海上に不法投棄するように船員に圧力をかけることもある。さらに、積み込み港には前の航海の貨物を残したまま入港してはならないとする用船契約の存在や、港湾にしっかりした汚染廃棄物処理設備が備わっていないことも問題悪化の要因となっている。こういった状況の中で、船員は難しい選択を迫られることになる。法を犯すか、解雇されるかだ。だからといって犯罪を犯してよいことにはならないが、これらの状況は情状酌量要因として起訴や判決の過程で考慮されるべきだ。
個人の自由が危機にさらされている現実や、船員が実際に働いている環境を考えれば、船員を訴追する要件に、犯行に関する知識・意図・実質的権限の存在を含ませるのが妥当だと言えよう。
多くの政府や海運業界はほぼ全般が船員の犯罪人扱いの動きに懸念を表明しているにもかかわらず、旗国の能力不足、不透明性、サブスタンダード船の問題にはほとんど関心を示していない。これらの問題への対応の遅れや、現代海運の現実に対する考慮不足から、各種海洋汚染防止策や保安対策が不必要な犯罪人扱いの動きにつながっている。
船員の犯罪人扱いの問題は複雑ではあるが、政府や業界がサブスタンダード船の撲滅等の抜本的問題にもっと真剣に取り組めば、問題を和らげることができるはずだ。
船員はテロとの戦いや海洋環境を守る戦いの最前線にいるにもかかわらず、テロリストや環境汚染犯でないことを自ら証明しない限り、その予備軍とし扱われている。
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シャロン・ジェームズはITF船員部会の上級アシスタント
船員への不当な扱いを許すな

2004年8月、国際自由労連(ICFTU)は労働者が不当にテロリストの容疑をかけられる問題に取り組むよう、国連に要請した。
ICFTUジュネーブ事務所次長でILO労働者グループの書記を務めるアナ・ビオンディは次のように語る。「米同時テロ後の保安問題で未解決のものの1つに船員の移動制限の問題がある。今日、罪のない船員がテロリストのように扱われている。上陸拒否などの政策は、保安に関して極めて重要な役割を果たしている船員の反感を買うだけで、正当な保安対策とはいえない。現在、最も問題となっているのが米国の政策だ。上陸拒否を頻繁に行っているだけでなく、船員の下船を阻止するために船舶に武装警備の配置を要求している。ICFTUは、労働者の権利、特にILO基準は人権であり、保安強化は対立ではなく協力によってこそ実現できるとする海運業界の主張は、全労働者、全職場にあてはまると考えている」
9月30日の国際マリタイムデーには、船員の労働組合(ITFを含む)と船主団体が合同で公正な海運保安対策と船員の上陸許可を求めて運動を展開した。
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船員の犯罪人扱いにつながるEU指令ETFが非難

EU領海内の海洋汚染事故における重過失罪導入の動きに対して、ITFの欧州組織、欧州運輸労連(ETF)は、船員の犯罪人扱いにつながるとして、反対運動を強化している。
問題となっているEU指令案は、国際海事機関(IMO)のMARPOL条約とは一線を引くもので、6月中旬にルクセンブルクで開催されたEU閣僚会議で合意されている。この指令案が欧州議会で採択されると、個々の船員および船主は、海洋汚染事故の際、過失が認められれば刑事訴追の対象となる。
「無責任な行動を擁護する気は全くないが、この指令により、海のプロである船員たちが犯人扱いされることを懸念している。船員を目指す若者たちの意欲をもくじくものだ。既に船長や航海士などが海難事故のスケープゴートにされる傾向があるが、この指令はその傾向をさらに悪化させる」とETFのエドゥアルド・チャガス海運部長は語る。
スペイン沖で沈没したオイルタンカー「プレステージ号」の船長、アポストロス・マングラスに対する保釈条件が昨年4月に緩和されたが、事件発生から1年以上が経過した後だった。
2003年8月にもパキスタンのカラチ港入口で「タスマン・スピリット号」の原油流出事故が発生したが、ITFの運動の甲斐あって、乗組員8人は無事に釈放された。
これらの事件は、船員が不当に犯罪人扱いされるのを防ぐためには国際的に合意された対策が必要であることを示している。
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