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2005年7〜9月 第20号
■価値ある投資
 
価値ある投資

航空産業における人件費は、投資の価値を考えればそれほど大きなものではないとインゴ・マロウスキは言う。

約350万人を雇用する航空産業にとって、人件費は最も高額な営業費の一つだ。地域によっては、人件費が総支出の25パーセントから30パーセントを占めるところもあり、燃料費を上回り、営業費の首位を占めることもあると専門家は言う。
しかし、リスク評価や航空産業の資産としての労働者の役割など、その他の重要な要素を考慮すると、人件費の問題を違う角度から見ることができる。
航空産業は、最も伝統的なサービス産業の一つであり、サービス産業は一般的に製造業などに比べ労働集約型だ。今日、航空機製造の大部分は機械化されているが、集客、飛行、運営、保守には依然として人間の労働力が必要となる。あらゆる大型機械と同様、航空機への投資も、その購入と保守に適切な金額を払ってこそ、初めて投資効果を実現できる。
アナリストや経営者は、誤った情報に基づき、これまで幾度となく航空産業の問題を全て労働組合のせいにしてきた。しかし、労働組合が人件費を管理しているわけではない。
団体協約には、二人の人間が署名をしている。署名の一つは最高財務責任者(CFO)のものだ。状況を評価した後、社会的パートナーである、経営側と労組が良質の労働に公正な賃金を支払うことを約束する文書に合意をする。
航空会社の抱える問題が全て労働組合のせいであるなら、例えば、組織化がほとんど進んでいない米国のデルタ航空の財務状態はずっと良くてもいいはずだが、実際、デルタ航空も他の大手米国航空会社と同様、経営状態は決して楽観できるものではない。
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労働リスクの評価

万が一、労働組合がストライキを決断した場合、新聞はストによりどれくらいの損失が出るか書きたてるだろう。ストという行動の責任は労働組合と経営側の双方が負っているという事実をマスコミが認識するには時間がかかる。労使双方がストによって生じる様々なコスト、例えば、貰えたはずの賃金、逃してしまった契約、マスコミによるこき下ろし、乗客の怒りなどを天秤にかけながら、他の要素とバランスを計り一連の交渉に臨む。
適切なリスク評価に関して、コンサルティング・研究会社のマーサーが最近まとめた旅と輸送に関する「航空産業のリスクは管理不可能か?(2004年マイケル・ジー、ロンドン)」という報告書に興味深い記述がある。航空産業を脅かす主なリスクに人件費のリスクが占める割合は18パーセントにも満たないというのだ。この数値は、戦略的リスク要素(約50パーセント)、財政的リスク(22パーセント)に比べると比較的低いことが分かる。
最近、マサチューセッツ工科大学(MIT)は、MITグローバル航空産業プログラム「灰の中から:航空産業の労使関係の再構築のための選択(2003年、トム・コーハン、アンドリュー・フォン・ノルデンフリヒト、ロバート・マッカーシー、ジョディ・ホッファー・ギッテル、ケンブリッジ」が行われていた過去10年間に、米国の航空会社でストライキが起きたのは、わずか2回だったという事実を実証し、この点を裏付けた。
その2回のストライキは、いずれも前代未聞の大幅な賃金カット、譲歩を余儀なくされた協約交渉、外部委託、レイオフのあった時期に発生している事実から、労働者がいかに前向きに自らの責任を果たしてきたかが改めて分かる。
一方、IATAの統計によると、1993年から2003年の間に、航空産業の生産性は55パーセントも上昇した。航空機以外にこのような改善を実現できる大型機械があるだろうか。
人間は適応が上手く、柔軟性に富み、スキルをさらに向上させることもできる。対照的に、先進国で現在多く使われてきている専用の自動乗客チェックインを考えてみよう。自動チェックインは常に保守点検や、変化する機能要求に対応するための部品の交換などが必要であり、乗客の少ない時期は「寝ている資本」になってしまう。一方、チェックイン担当者は、乗客が殺到する時間帯の合間を縫ってチケットの切れ端を整理したり、ファイリングを行ったり、乗客が殺到した際に発生した問題を解決したりしている。
労働者は、プロセスの最適化と生産の合理化において、常に資源となり得る。 繰り返し行われる「品質管理(QC)サークル」と呼ばれるワークショップは、現場の労働者の知識と経験を活用するという基本原則に基づいていることは周知のことだ。こうした意味でも、労働者の存在により、数十億ドルが節約できている。
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より良いアプローチ

かつて、労働者は単なるコスト以上のものと見なされていた。経済、規制、労使関係の全てを考慮に入れるという新しいアプローチが達成できるのかどうかはまだ分からない。新しいアプローチによって、より健全な航空産業が築けるのだろうか?「労使双方に勝利をもたらす」ことは可能だろうか?
自由市場の提唱者は認めようとはしないが、市場原理の解放と無制限の規制緩和は失敗に終わった。何かしらの規制を緩和するたびに、航空産業は以前にも増して多くのものを失うことになった。今では広く認識されるようになった航空業界の有名な景気循環サイクルがこのことをよく示している。
ほんの少し常識を働かせれば、規制緩和ではなく、学者や組合活動家の間で最近よく話題に上る「賢い規制」へ転換することは容易なはずだ。「賢い規制」は:
持続可能で、それゆえに業界の長期的な社会面、経済面、環境面から見たニーズに合致する。
官僚主義に陥ることなく適度に規制され、かつ従業員、乗客、その他の利害関係者を適切に保護する。
あらゆる利害関係者の意見に開かれている。
すなわち、様々な活動や各サービスの提供ごとに責任の所在が明確である。
研修、安全、保安などの主要活動分野に的を絞ったものである。
航空産業の景気循環は、約8年から10年ごとに浮き沈みを繰り返すため、予測は容易だ。航空関係会社の株主は、時計のように規則的に好景気を経験したかと思うと、数年後には不況に見舞われる。好況の間は、次に来る不況に備える準備が必要だ。景気循環が乱れることはめったにないので、労使双方が管理をもっと上手くする必要がある。
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相互利益

米国の格安航空会社、サウスウェスト航空がストライキにより業務を停止したことが今までに一度もないのには理由がある。サウスウェストの経営者は労働組合が従業員を真に代表していることを認め、一方で組合側も、企業は厳しい競争の中で生き残っていく必要があり、収益を上げなければならないことを理解している。こうした状況から、株主だけでなく、従業員も恩恵を受けている。これまで時間をかけてじっくりと労使双方がお互いに対する信頼感を育んできた。そうした信頼感は、危機が訪れてから築けるものではないし、労組側か一旦譲歩をしたからといって消えてなくなるものではない。
そうした意味からも、企業が業績回復を目指す時期に締結する協約には、労働側の痛みを伴う譲歩が必要になるかもしれないが、経済状況が好転した場合は、少なくとも部分的に労働者の譲歩をねぎらうメカニズムが用意されるべきだ。逆に、一時的な収益を確保するために、労組との関係を壊すとう選択肢もあるが、労使関係が破壊されてしまえば、長い目で見た時に企業にマイナスの影響が及ぶことになろう。
アイルランドの格安航空会社、ライアンエアは、サウスウエスト航空の格安路線に習ったが、労使関係についてはサウスウエスト式を採用しなかった。ライアンエアは現在、労使関係の問題を抱えており、欧州の数カ国で基本的な雇用権と労働組合権をめぐって起訴されている。(裁判の詳細はwww.ryan-be-fair.orgを参照のこと)こうした問題は、他の航空会社がすでに大変な努力の末に改善してきた問題だ。既にいくつかの訴訟で労働者の権利の勝利が確認されている。
ライアンエアの攻撃的な組合潰しとコスト削減のアプローチが最終的に一般化していき、航空会社が収益性を長期にわたって確保していく上で吉と出るのかどうかはまだ分からない。しかし、私は、ライアンエアが労使関係を見直すか、財政的に行き詰るかのどちらかになるのは時間の問題だと思う。
あらゆる適切な投資と同様に、こまめにケアを行えば、労働の価値は時間が経過するにつれ、上昇していく。航空産業における人件費は高いかもしれないが、労働力の根本的な価値を見過ごしてしまうことほど、高くつくことはない。労使のパートナー関係というアプローチを取ることにより、航空労組は労働者への投資を育み、航空会社も良い時も悪い時も一貫して利益を期待できるようになる。
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インゴ・マロウスキはITF民間航空部長。
 
 
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