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2005年7〜9月 第20号
■競争が暴走する
 
競争が暴走する

不公正な競争や運賃ダンピングが助長されるとして日本のタクシー運転手らが起こした訴訟を朝枝雅子が報告

かつて日本では、タクシー運転手はぜいたくとはいかないまでもそれなりの収入を得られる仕事だった。今日、経済不況と規制緩和を背景に、運転手たちは増加するタクシーと減少する乗客の狭間で激しい競争にさらされている。つまり運転手の収入が減少し、生活のためには長時間労働をせざるを得なくなっている。
この事態は、国土交通省がいわゆる「9.16通達」を出したことにより更に悪化した。この通達は2004年10月に施行され、不当競争とタクシー運賃のダンピングを助長している。
1996年12月以来、国土交通省は多くのタクシー会社の新規参入を認可するとともに運賃の減額を許してきた。9.16通達はこの文脈に沿って出されたものだ。この通達によって、チケット契約による企業などの大口利用客のタクシー運賃を30%まで割引くことができる。チケット利用客は運転手の収入の30〜34%を占めるので、チケット運賃の減少はタクシー運転手の収入減につながる。
タクシー運転手を組織するITFの加盟組合、全国自動車交通労働組合連合会(全自交労連)は、24名のタクシー運転手やタクシー利用者らの提訴を支援している。原告らは、この通達は不当競争と運賃のダンピングを助長するとして、国に50万円の象徴的な賠償を求めている。
通達によって運転手は長時間労働を強いられ、より多くの乗客を乗せるために速く走り、乗客や自分の安全を脅かすことになる。タクシーは実際、他の車両より交通事故に巻き込まれる確率が高い。
警察の統計によれば、2003年度には前年に比べ、タクシーの交通事故件数は5%増加した。これは交通事故すべての増加率の5倍だ。死亡事故は全体として7%減ったにもかかわらず、タクシーの死亡事故は25.5%も増加している。
原告はまた、チケット利用客を対象とした30%の運賃割引は乗客に対して不平等であると主張している。特定の乗客が他の乗客よりも安くタクシーに乗れるからだ。損をするのは道でタクシーを止めたり、電話でタクシーを頼んだりする普通の乗客だ。極端な規制緩和やコスト削減は企業のみに利益を与え、公正で安全な公共交通を提供するというタクシー産業の役割を脅かしている。
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運転手の賃金がターゲットに

多くの組合は1990年代に賃金システムの変更を受け入れざるを得なかった。そのころ、コスト削減の目標が支出の大半を占める賃金に向けられたのだ。それまでの「固定給プラス歩合給」から、「完全歩合給」という仕組みに取って代わられた。組合がこの変化を受け入れなければ、多くの運転手が職を失っただろう。
しかし現在、運転手が以前よりも一生懸命、長時間にわたって働いているのに生活に最低限必要な賃金が得られないという事態が運賃の大幅な割引によって引き起こされている。日本の多くの地域ではすでにタクシー運転手の平均収入が生活保護を受けるために定められている収入を下回っている。
また、タクシーの増加によって渋滞や、乗客をめぐる運転手同士の争いや、タクシー運賃をめぐる運転手と乗客の不要な争いなども起きている。原告は、運転手と乗客のために、このようなタクシーのサービス低下を止めるよう、政府に求めている。
タクシー利用者として原告団に参加している和田茂ITFアジア太平洋地域部長は、次のようにコメントしている。「提訴は全自交にとってよい決断だ。ロボットではなく人間がタクシーのハンドルを握っていることを、日本政府は認めるべきだ。企業客に対する運賃割引が労働者の犠牲の上になされることは、断じて許されるべきではない」。
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朝枝雅子は東京にあるITFアジア太平洋地域事務所の書記。
これでどうやって生活していけと言うのか

タクシー運転手の意見陳述

柴野宏昭
私は、現在49歳です。タクシー運転手を約9年やっております。その前は貿易会社に勤めていましたが、その会社も今は倒産してありません。タクシー会社に入ったのは他に仕事がなかったからです。
タクシー運転手になったばかりの頃は年収で500万円を超える程度はありました。しかし、その後、お客さんは全然増えないのに、タクシーだけが規制緩和で増えましたから、お客さんをお乗せする事がとても大変になってきました。今では300万円台の年収しかありません。
私は糖尿病を患っていることもあり、月に11出番しか乗務することができません(注:一回の出番は16時間の所定労働時間と2〜3時間の休憩、そして残業時間からなる)。同僚たちは規定外の13出番、勤務しています。みんな、生活を維持するために休日を削って、命を削って仕事をしているのです…
ぎりぎりの生活をする毎日ですが、もし今回の9.16通達で大口割引が横行し始めたら、われわれの生活は悲惨そのものです。私の月の手取りは20万円そこそこです。大口割引によってチケット客の営業収入が下がれば、私の給料そのものに跳ね返ってきます。私の手取りは10万円台になってしまいます。これでどうやって生活していけと言うのでしょうか。国土交通省は私たちの生活を本当に分かっているのでしょうか。国交省のお役人は人の血が通った人間なのでしょうか。

白井節夫
現在、56歳で、タクシードライバーとして働き始めてちょうど20年になります。タクシードライバーになる前は、実家が日本そば屋だったこともあり、学校を卒業して以来、そばの調理をしてきました。しかし、結婚後、二人目の子どもが生まれたとき、タクシードライバーに転職することを決意したのです…このまま、そばの調理人をしていても、2人の子を大学までやる稼ぎは得られないと思ったからです。妻に相談したところ、危険な仕事だし、大変そうだけど、大丈夫なの、と心配されました。しかし、給料は、危険かつ体力的精神的にきつい分、それまでの仕事よりもはるかによく、これなら大学までやれると夫婦で喜んだのを覚えています。
いま、わたしの手取りは月10万円台です。世の中は進歩し便利になりましたが、タクシードライバーの仕事はまったく変わっていません。相変わらず一日に20人が交通事故でなくなる道路を職場としています。24時間寝ないで働いては、家に帰って泥のように眠り、その翌日にはまた仕事に出かけます。狭い車内で見知らぬ乗客と二人になるプレッシャーも想像以上に厳しいものです。20年間同じ仕事を続けているのに、手取りは大学卒の初任給を下回っています。
子どもを大学にやるのは不可能です。家族で旅行なんて何年も行っていません。毎日生活する分を稼ぐのがやっとです。
減収の原因としては不況と特に規制緩和によってタクシーの数が増えたことが大きいです。繁華街はどこも客待ちの空車であふれています。一人の客をめぐって2台のタクシーが争うようにして停車する光景が増えています。小さくなったパイをより多い人で争っているのです。
最近、タクシー業界に転職してきて直ぐに辞める人が増えています。「こんなに大変なのに給料はこれっぽっちか」という言葉を残して。若い人はまだ転職の道もあります。でも中年ドライバーにとっては次の職を見つけることは簡単ではありません。ずるずると仕事を続けていくうちに気付いたら家計が赤字だったという悲鳴もあちこちから聞こえてきます。
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2005年3月、柴野宏昭と白井節夫の意見陳述より抜粋
提訴の主要な論点
国土交通省の通達は、公正な競争を守り、タクシー運賃のダンピングを防ぐためにある既存の法律に抵触するため違法だ。
これ以上の運賃値引きは生活していくだけの収入が得られなくなるため、タクシー運転手の生計を脅かす。
運賃値引きはチケットを利用する大口企業顧客にしか利益をもたらさない。
乗客は安全、便利で居心地の良い公共交通手段を得るという権利を侵害される。
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