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2005年7〜9月 第20号 |
■交通運輸にも国際化の波 |
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交通運輸にも国際化の波
交通運輸産業のグローバル化を促す海外直接投資の役割をケマル・ウルケルが説明する
ここ数十年間の大幅な航空・海運コストの低下によって、今日見られる製造の分離とグローバル化が可能になった。
70年代までは、国際経済も二国間の財・サービスの交換が中心で、多国籍企業やその現地法人も主に国内(および隣国)市場向けに製品を製造しているだけだった。そして従来型の輸送モードが各市場をリンクさせる役割を果たしていた。
しかし今日の運輸は、複数の大陸にまたがって製造、設計、マーケティング、管理機能をコーディネートする、多国籍企業の複雑な製造システムをリンクさせる役割を果たしている。一方、多国籍企業は直接投資という形で、海外に工場やコールセンターを建設したり、買収したりしながら、グローバルな労働市場に参入している。
ここ20年間の海外直接投資の伸び率は国際貿易の2倍で、2002年の対外直接投資の総額は8兆1,970億ドルに達している。(1982年は5,900億ドル)
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大規模投資
他産業の国際化を助けてきた交通運輸自身が今、国際化の波にさらされている。国連貿易開発会議(UNCTAD)の最新の「世界投資報告書」は、対外直接投資が電気、水道、電気通信のほか、運輸にもシフトしていると指摘している。
この報告書によると、倉庫および運輸関連の対外直接投資総額は1990年から2000年の間に16倍に増えている。世界99カ国に子会社を抱える元国営郵便のロジスティクス会社「ドイツポストワールドネット」は多国籍企業の代表例だが、同報告書は運輸会社の海外直接投資の例として、ドイツポストのITオペレーションセンター(チェコ、4億5,600万ドル)、ハッチソン・ポート・ホールディングズの港湾建設(メキシコ、1億8,500万ドル)、GSLホールディングズのロジスティクス・パーク(中国、1億8,500万ドル)などを挙げている。
国境を越えたロジスティクスに進出している郵便事業者はドイツポストだけではない。これらの巨大企業は急速に変化する顧客のニーズを満たすために、どんどん海外に投資している。
対外直接投資の結果として現れるのが国境を越えた買収合併だ。これこそまさに今、郵便事業で行われていることだ。ライバル企業に対抗あるいは先制するために数々の買収合併劇が繰り広げられているのだ。
一方、航空産業ではまだ全面的な自由化は実施されていない。飛行権に関する国際的な枠組みでも国内資本が強調され、外資規制が導入されている国も多い。これは主に国家保安や緊急時にインフラをコントロールする必要性に基づくもので、実際、国境を越えた合併や買収は稀だ。しかし、変化を求める圧力は日増しに高まっている。3年前、外資の入った航空会社の割合は17%だったが、現在は25%に増えている。
合併を避けながらも市場統合の利点を活かしたいと考える航空会社にとって、アライアンス(提携)の重要性は増すばかりだ。世界貿易機関(WTO)の2001年の統計によると、航空会社のアライアンスに基づき、貨物、マーケティング、グランドハンドリング等の分野で1,200もの協定が締結されている。
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労働と海外投資
海外直接投資の運輸産業へのシフトは、市場開放や海外のインターモーダル事業者の参入・買収を可能とさせる、より一層の規制緩和圧力を各国政府に突き付けている。
今日、ほぼ全ての国で多国籍企業の海外投資促進を目的とする法律が導入されている。2003年だけでも244件の法改正が実施され、そのうち220件で自由化が推奨されている。1991〜2003年には、全世界で1,885件の法改正が行われ、よりよい投資環境をつくるための自由化が推し進められた。
こういった状況の中で、労働者は輸送モードの違いにかかわらず、業務量の増加、柔軟な就労体制圧力、人員削減、賃下げ、組合弾圧、法律違反を迫られるなどのプレッシャーに直面している。
これらのプレッシャーは今後、一層高まることが予想され、労働者の国際連帯の必要性は高まるばかりだ。幸いにも、労働者の権利に対する挑戦を生み出した、このようなグローバル体制は、世界各地の労働者を団結させる機会をも生み出している。多国籍企業の「ジャストインタイム」への依存は、グローバル化した運輸産業で働く労働者の戦略的重要性をも高める結果となっているからだ。 |
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ケマル・ウルケルはITFの教育コーディネーター |
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多国籍企業事例研究
配送が成功へのカギ
デルフィ・プロダクト・アンド・サービス(以下デルフィ)は世界の自動車メーカーに部品や自動車システムを提供する多国籍企業だ。36カ国に208の工場を抱え、社員総数は17万5千人に達する。グローバルな労働市場を活用して、複数の大陸を跨ぎながら製造、設計、マーケティング、管理機能をコーディネートしている。
デルフィはロジスティクス/サプライチェーン管理を成長のための武器とみなし、サプライチェーンの効率化をブランド力の強化や製品開発と同じくらい重視している。
ウィーンのデルフィ工場を見学した2004年のITFサマースクール参加者は、デルフィの全工場が在庫費用を減らすためにジャストインタイムの配送システムを採用しているとの説明を受けた。 |
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郵便事業者の成長
従業員数の変化
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企業名 |
1990年 |
2003年 |
ドイツポスト(ドイツ) |
313,177 |
341,572 |
TPG (オランダ) |
63,000 |
163,028 |
UPS(アメリカ) |
252,000 |
357,000 |
FEDEX(アメリカ) |
58,000 |
190,918 |
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成長率 |
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1990年の売上高 |
2003年の売上高 |
年間成長率 |
企業名 |
(100万ドル) |
(100万ドル) |
(%) |
ドイツポスト |
7,734 |
45,267 |
4.6 |
TPG |
2,351 |
13,423 |
14.3 |
UPS |
13,600 |
33,485 |
7.2 |
FEDEX |
5,183 |
22,487 |
11.9 |
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出典: 「世界投資報告書2004」(UNCTAD) |
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