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グローバルユニオン

2009年7〜9月 第36号
■危機に直面する資本主義
 
危機に直面する資本主義

金融危機が交通運輸労組と組合員に及ぼす影響は?

現在のグローバル金融危機の規模とスケールは、前例がないほど大きなものだ。経済協力開発機構(OECD)の発表では、先進国は過去50年間で最も深刻かつ最も広範にわたる不況のさなかにある。この6ヶ月間、ほとんど全てのOECD加盟国で生産活動が低下している。非OECD諸国でも生産が急速に落ち込み、世界経済がマイナス成長を記録した。
解雇、賃金引下げ、不安定雇用の増加に対する懸念、失業など、この状況は潜在的に労働者に壊滅的な影響を及ぼし得る。データによれば、全OECD加盟国で、労働市場がさらに弱くなっており、一部の国では、大きく落ち込んでいる。米国では、2008年初頭から状況が悪化し始め、失業率も急速に悪化し、1980年代以来最悪となった。現在、ユーロ圏でも失業が広がりつつある。
このことは労働運動にとって何を意味するのか?一見、何一つ期待できる状況ではなさそうだが、グローバル経済の大変換により、労働組合は課題を突きつけられているだけでなく、チャンスにも遭遇している。
グローバルユニオンは4月に会合を開き、以下の点を盛り込んだ共同声明をロンドンで行われたG20サミットに提出した:
■世界経済の回復と雇用創出、公共投資の確保、世界の貧困撲滅に向けた持続可能な成長計画を調整する。
■債務超過に陥った銀行を国有化し、新たな金融市場規制を設立する。
■賃金デフレーションのリスクと闘い、過去数十年間で広がってきた不平等を矯正する。
■幅広い気候変動対策を取る。
■IMF、世界銀行、OECD、WTOなどのグローバル金融・経済機関の改革を含む、新しいグローバル経済ガバナンス制度を創設し、国際労働機関(ILO)に中心的役割を担わせる。
G20サミットを受け、サミットが効果的なグローバル規制の設立に向けた決意をさらに固めていることを認識し、グローバルユニオンはサミットの成果を歓迎した。また各国が調整しながら行っている救済支援についても、警戒感を示しつつも、これを歓迎している。G20サミットでは、依然として市場という言葉が語られたが、女性のための「公正かつ家族にやさしい労働市場」の確立と、「勤勉な市民のニーズと雇用」を経済回復計画の中心に据えることへの決意も示された。全体的に見て、G20が出した声明文はもっと進歩的な内容にできたであろうし、世銀やIMFのガバナンスには時間がかかるという印象を受けたが、各国際機関の政策にさらなる一貫性を持たせることが強調された。これは、少なくとも、労働者がしかるべき信頼を受け、大企業の利益だけを重視するのではない社会を実現する上で、正しい第一歩であったと言える。
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交通運輸産業にとっての課題

ITF書記長、デビッド・コックロフト

航空輸送部門は、旅客、貨物の両市場で大きく落ち込んだ。例えば、業界が発表した数値によると、貨物輸送では、最大シェアを占めるアジア太平洋地域で、この一年間に輸送量が28.1%低下した。
航空旅客輸送も低迷している。2008年11月、米国の航空産業では、月ごとの乗客数が2002年1月以来の落ち込みを見せた。昨年、英国の空港を利用した乗客の数は、過去17年で最低を記録した。
海運産業も厳しい状況にある。ばら積み貨物輸送が低迷し、コンテナ輸送量が大幅に落ち込んだ。また、運賃も低下し、「輸送能力とサービスの削減」につながっている。簡潔に言えば、雇用が失われ、労働条件が悪化している。
不況期には公共交通がよりいっそう重要であり、景気が回復するためにも公共交通が重要であることを考えると、わずかながら希望が持てるのが公共交通部門だ。現在の経済危機を、持続可能な公共交通を促進するための機会として捕らえることもできよう。
例えば、オーストラリアのシドニーでは、経済的および環境的理由から車離れが進み、代わりに鉄道やバスの利用者が増えており、長期にわたって乗客の行動パターンが根本的に変化する、と専門家は予測しているとの報告が2月にあった。
そうは言っても、過去10年の傾向を見てみると、公共交通に投資がなされるかどうかは、民間の金融機関次第だった。そのため、既存の必要不可欠な交通運輸サービスや、交通インフラ改善のための資金確保が脆弱になってしまった。例えば、英国の鉄道網では、2009年にインフラ保守への投資を3割削減すると発表された。
観光に伴う交通も落ち込み始めている。国連世界観光機関(UNWTO)が2008年後半に発表した報告によると、世界の観光産業は1%縮小し、2009年の見通しは暗い。しかし、暗澹たる話ばかりではない。UNMTOは、「観光産業は、ユニークな復興能力を備えた産業として、経済復活のプロセスにおいて肝要な役割を果たし得る」と述べている。
不況がもたらす影響を概観してみると、雇用と賃金に非常に大きな圧力がかかっている。結果として、新たな組織化に取り組むことが不可欠になっている。雇用と労働条件を守る役割を果たすという組合の魅力が、再び増してきたようだ。これは組合にとって成長の機会であり、未組織の組織化により労働者間の賃金競争を防ぐ、あるいは緩和することが可能だ。
女性は男性に比べ、不況の影響を受けやすいと予測されている。不況により、グローバル経済が「急速に悪化する」可能性があり、女性の失業率は22%悪化する、とILOは予測する。ITFはこの脅威を阻止するために闘っており、女性が雇用される職場で組織率を確実に高めようとしている。
ITFと加盟組合は経済危機の厳しい現実について幻想を抱いているわけでは全くないが、労働組合にとっての機会が訪れていることも認識している。資本主義はもはや完全に信用されなくなったとまでは言えないものの、自由放任型の資本主義はもはや議題に上らなくなった。
その代わりに、市場の規制、社会的に責任のある企業慣行の促進、インフラへの国家投資などを促進していく必要がある。労働運動にとっては、人間らしい、持続可能な雇用や、連帯、平等、自由、公正といった中核的な価値観を追求する余地が生じ始めている。
ITFは、加盟組合が新たな活動方式の導入と加盟人員の増加という2つの課題に対応できるよう、加盟組合を支援している。組合が今後の社会の動向に影響力を発揮したいのであれば、今すぐ行動を起こし、ロビイングや政治キャンペーン、コミュニケーション・キャンペーンを展開しなければならない。
解決法を探る中で、ITFは、教育、研究、政策・コミュニケーションに関する戦略をあらゆる部会、地域において促進し、各分野でうまくいく解決策を見出し、それを実施するように努めている。この取り組みの一環として、研究や教育活動、ロビイングを行い、組合のイメージを向上させることを目指して「交通運輸労働者はグローバル経済に不可欠な存在」というシンプルかつ断固たるメッセージを一般市民に伝えてきた。
ITFはまた、専用のウェブサイトの立ち上げなども検討しながら、失業や組合の失業対策についてデータを収集したり、モニタリングを行っていくつもりだ。
現在考案中の戦略の中心には、経済危機で深刻な打撃を受けた組合を支援するための「組合支援」の要素があり、そういった支援を同一の多国籍企業を組織する複数の組合間で調整することができよう。
回復と呼ぶに相応しい状況を築くための行動を求めるグローバルな声に、組合が応えていくつもりがあるのなら、組合の活動を見直し、組合構築と雇用保護のプロセスに新風を吹き込む必要がある。同様に重要なのは、労働者の雇用と権利を経済復興政策の中心に据えるため、闘う精神を持ち続けることだ。
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経済危機に関する詳細な情報はwww.itfglobal.orgを参照のこと。この記事は、「世界を動かすために:経済回復のためのグローバルユニオンの戦略」から抜粋したもの。
数値で見る交通運輸産業

90%
主要なばら積み船荷部門の指標であるバルチック船荷指標は、2008年半ばから2009年1月にかけて90%下落した。

1700万
2007年12月から2008年12月のまでの間にシドニーのシティーレイル社の鉄道を利用した乗客数は延べ1700万人で、5.7%増加した。

1英国ポンド
昨年12月のプロモーションセールスの一環として提供されたMSCクルーズのクルーズ代金は1ポンドだった。クルーズ船の予約状況は持ちこたえてはいるが、出航直前の値下げや1人分の料金で2人利用できるサービスの提供、航海の短縮、その他の安売りを提供しているからだ。

49%
ITFに加盟する港湾労組の49%は、組合員が雇用を失ったと報告している。港湾は、グローバル経済危機の影響を最も受けた産業の一つと思われる。

23.3%
航空貨物市場は前年比で23.3%の需要減を記録した。国際航空運送協会(IATA)は、これを「恐るべき急落」と表現した。

250米ドル
コンテナ運賃は、前年の400米ドルからさらに下がり、250ドルまで落ち込んだ。
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視点:抜本的な再検討

経済危機下に国際労働運動が果たすべき役割について、エリザベス・コットンが見解をまとめた。

どのような政策を採用する国であろうと、現在、抜本的な再検討を行わざるを得ない状況にある。金融産業について、また金融産業の規制について、再検討しなければならない。どうすれば経済の安定を図れるのか、同時にどうすればディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を創出できるのか、再考しなければならない。
この再検討という作業は、労働組合の活動にとって非常に重要だ。労働組合は、企業への規制強化と社会正義の確立を求め、絶えず活動してきた。組合は、公正な配分、すなわち、誰が何を手に入れ、誰がそれを決めるのかについて公平なシステムを構築するという大きな政治的な役割を演じている。これこそ正に、職場レベル、国レベル、世界レベルで擁護されるべき原則である。
このプロセスにおいてグローバルユニオン(国際労働組合総連合(ITUC)、国際産別労働組合組織(GUF)、OECD労働組合諮問委員会(OECD-TUAC)の総称)が果たす役割は極めて重要だ。それは何故か?
グローバルユニオンは世界最大の組織人員を誇る組織であり、財界にも政党にも現存しない正当性を手にしている。グローバルユニオンは、富裕国と貧困国双方の労働者、移民労働者、契約労働者、教師から鉱山労働者まで、経済危機に対応することが必要とされる、あらゆる分野の組織から成り立っている。グローバルユニオンこそ、人々を真に代表する組織であり、それゆえに、政府レベル、国際レベルの意思決定において重要な役割を担う。
多数の国が参加するグローバルユニオンの構造もまた、この経済危機下で活動していく上で重要な要素だ。グローバルユニオンには多くの国が参加しているため、労働運動、連帯、団体行動といった組織化の一般原則に基づき、組合同士の関係を調整することができる。グローバルユニオンはまた、100年以上も国際レベルで活動してきた。政府や国際金融機関(IFIs)と協議し、多国籍企業と交渉し、使用者の国際的規制を求めることこそ、正にグローバルユニオンが行うべき活動である。各国際産別(GUF)もまた、加盟組合に対し産業面や技術面で膨大な支援を行っているが、そのような支援は経済危機下でますます重要になってきている。GUFは、各当該産業内の雇用を守り、雇用を再構築しようと懸命に取り組んでいる。例えば、ユニオン・ネットワーク・インターナショナル(UNI)は金融業界の規制に取り組み、国際公務労連(PSI)は公共サービスの保護に取り組み、国際建設林業労組連盟(BWI)は移民労働者の組織化に奔走し、国際化学エネルギー鉱山一般労連(ICEM)は請負労働者や派遣労働者の組織化に努力している。グローバルユニオンは、経済危機の中、組合の活動の調整を図る唯一の方法を加盟組合に伝授している。
グローバルユニオンは、改革のために行うべき行動を、ロンドン宣言として一つにまとめた。ロンドン宣言は、労働組合の人間でなければ書くことができなかった素晴らしい内容になっている。宣言文には、国際レベルの再生計画から、雇用関係のグリーン投資に至る、主要な活動路線が明記されている。ロンドン宣言はその内容が重要なばかりではなく、世界中で1億6,700万人の労働者を代表している各国の労働組合が使用者と交渉する際の基本路線になるという意味でも重要だ。宣言文は見かけ倒しのものではなく、そこにはグローバルユニオンの実践すべき義務が記されており、グローバル経済を立て直すにあたり、各国レベル、世界レベルで組合が取り組むべき行動が明記されている。
もし、この記事を読んでいるあなたが組合員なら、あなたの組合が加盟している国際産別の活動にもっと積極的に参加するよう組合に働きかけて欲しい。現在の危機は単なる経済危機ではなく、政治的な危機でもある。意思決定を行うのは、もはやニューヨークやロンドンにいる少数の人間ではない。雇用に影響を及ぼす意思決定は、労働組合の積極的関与のもとになされなければならない。また、あなた自身がグローバルユニオンの能力構築にも関与することが同様に重要だ。グローバルユニオンの能力は、加盟組合の政治面、財政面での支援の上にのみ成り立つ。グローバルユニオンの力を最も必要とする今は、実はグローバルユニオンを最も支援しなければならない時なのだ。国際労働組織の弱体化を許すなら、今起きている抜本的再検討の流れの中で、組合は影響力を失っていくだろう。
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エリザベス・コットンは国際産別組織に関する新書「グローバルユニオン、グローバルビジネス」の共同著者の一人。ITF加盟組合は、「TU3M」というコード番号を引用すれば、本書をミドルセックス大学出版から15.99ポンドの値引き料金で購入することができる。詳細はwww.mupress.co.ukを参照のこと。
 
 
INDEX
物故者
英国の組合指導者ジャック・ジョーンズを悼む
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ハナフィ・ルスタンディのイランへのメッセージ:イスラム教と民主主義は矛盾しない
海賊
悪化するソマリア沖アデン湾の状況
危機に直面する資本主義
金融危機が交運労働者に及ぼす影響は?
成功への道
不安定な雇用形態の改善を求めて闘う南アフリカの路面運輸労組
ジンバブエ
困難の中で奮闘する組合の様子
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米英共闘の勝利-ファースト・グループの組織化
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ケニア港湾労働者、エイズ政策を勝ち取る
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民主主義の強化-ITFの教育活動の成果
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勝利に沸くアルゼンチン航空労組
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勤労生活:バーレーンの航空ケータリング・スーパーバイザーのハッサン・ハメイド
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