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No.28/2014
■ILO海上労働条約
 
ILO海上労働条約
滑り出しは順調?


2013年8月、ILO海上労働条約(MLC)がついに発効した。MLCは果たして有益なツールとなり得るのか?ITF海事部のケイティ・ヒギンボトムが問いかける。

ILO海上労働条約(2006年)が2006年2月に採択された時、海運界はその功績を称賛した。政府、船主、組合の三者は、船員が適切に規制された居住・労働条件を与えられる権利を有することや、それらの最低基準をどうすべきかについて、ついに合意に達したのだ。
採択に至るまで、三者間で、受け入れ可能な文言をめぐり、何時間にも及ぶ議論が繰り返された。その結果、できるだけ幅広い批准を確保するために、条文には十分な妥協の余地が残されたほか、必要に応じて船主と船員代表の協議を求める規定や、条約実施のための強力なしくみが確保された。
採択後、主要なFOC国が早々に批准し、よいスタートを切ることができた。しかし、その後は減速し、5年以内に条約発効に必要な批准を確保する見通しは、7年以内に修正された。各国政府の優先政策の変更や景気悪化が主な原因だ。
そして、発効に至った今日、どのような評価がふさわしいだろうか?MLCは有効なツールとして機能しているのか?官僚主義の階層がまた一つ増えたに過ぎないのか?ITFインスペクターの報告では、多くのプラスの影響が見られる一方、落胆させられる出来事も若干あるようだ。
まず、プラス面では、外国船舶監督官が不正契約や二重帳簿のケースに介入するようになった。P&Iクラブがイタリアで遺棄された船員の送還費用の支払いに応じたケースもある。これらは皆、MLC発効前には聞いたことがなかった事例である。船員の苦情に回答する旗国も増えた。もっとも、これらの回答が意義ある行動に移されるかどうかは別の問題ではあるが。一方、マイナス面としては、MLC証書が発行され過ぎているように思われることだ。証書の多くは有名な船級協会が発行しているが、要件遵守にほど遠い船舶も証書を保持しているのが現状だ。
MLCの完全履行には時間がかかるだろう。しかし、履行に向けてシフトが行われていることは明らかだ。世界中の船員に最大の効果をもたらすことができるか否かは我々にかかっている。
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査察官の仕事

MLCは旗国や入港国の査察官の役割を変えた。査察官は今、船員の労働・居住条件の査察という新たな責務を担っている。その新たな責務の遂行方法は現場で習得していくしかない、と英国海事沿岸警備庁(MCA)海事鑑定人のネイル・アトキンソンは語る。

2013年8月に長年の悲願であったILO海上労働条約(MLC)が発効し、海運界の歴史に新たな1ページが開かれた。ここに至るまでに多くの時間と労力が費やされてきた。本当に実現するのか、疑問が投げかけられたことも度々あった。しかし今日、条約は発効し、実施されている。そして、これまでの私の経験においては、MLCは既に世界の船員の労働・居住条件にプラスの影響を及ぼしている。
MLCの発効は、船員の労働・居住条件改善の取り組みのすばらしいスタート地点となった。今や船員の労働・居住条件は、海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)や船舶による汚染の防止のための国際条約(MARPOL条約)等で保障される権利と同様に、基本的権利と考えられるようになった。MLCの強みはその柔軟性にある。つまり、旗国はMLC要件の実施について、実質的に同等の成果を達成できる場合には、条約の規定とは異なる方法で実施できる点にある。また、条約の遵守・実施のためのしくみが確保されている点も大きな強みだ。船主を目に見える存在にし、船員のための苦情申立て手続きを導入することで船員に声を上げる機会を与えている点にも大きな意義がある。
MLCは完璧ではないが、船主にとっては公正な競争の場として、船員にとっては権利の章典として、その活用が期待される。しかし、実施に関しては、各国の国内法に委ねられているため、要件も旗国ごとに異なる。その結果、船主が条件のよい旗国を比較、選択し、基準が引き下げられていく可能性も否めないと感じている。MLCの目的が基準引き上げにあることを船主は忘れてはならない。
査察官の私には、国内法をつくる責務はない。私の責務は、効果的かつ効率的に査察を実施することにより、MLCの履行を確保していくことだ。これは正に、査察官として、最もおもしろく、かつ困難な仕事だ。全く白紙の状態から任務を開始していくからだ。

査察に対する新たなアプローチ
MLCは「万能な」条約と称されることが多い。しかし実際は違う。確かに、コンテナ船、タンカー、一般貨物船にも非常によく適合する。しかし、タグボートや作業船等に適用しようとすると問題が明るみになる。これらの問題−私の経験では、乗組員の居室に関するものであることが多い−の解決には、既成概念にとらわれない考え方が必要となる。
そこで、実質的に同等の考え方が効力を発揮する。MLCは、実施の難しい規定については、船員に実際にもたらせる恩恵が、条約が規定するものと結果的に同等であるならば、実施の方法について交渉の余地を残している。そのよい例が、商業用の大型ヨットの船員用居室だ。これらの船舶は通常3000GT未満であり、船員の居室の床面積の要件を、来客用の居室を犠牲にせずに確保することは難しい。よって、居室と一体化した設備が備わっていれば、床面積を減らせることとなった。
用語を定義づけるために、社会的パートナー(船主や船員組合)との協議・対話が必要となることもしばしばだ。特定のケースにおいて、船員あるいは船主が意味することを定義づけるのは必ずしも容易ではない。しかし、誰がどのような権利・責任を有するのかで合意に達するためには、ここが非常に重要なスタート地点となる。その他にも協議・対話が必要となる用語は出てくるだろうが、その多くは、用語−例えば、「近接する(closelyadjacentto)」など−の解釈の仕方についてどのように合意に達するかにかかっている。これらの問題を解決するには時間がかかるだろう。また、社会的パートナーとの良好な関係も不可欠となる。

正直かつ現実的な対話
英国海事沿岸警備庁(MCA)海事鑑定人として、あらゆる種類の調査、査察、監査に従事してきたが、MLCはこれらとは若干異なるアプローチを求めているように思われる。我々、査察官は、賃金など、慎重な対応が求められる問題を扱っていることを認識しておく必要がある。船員が旗国や認定機関の査察官に話しかけられ、神経質になるもの無理はない。私自身も船員だったときはそうだった。査察官も同じ人間、船員に話しかける時は、できるだけ船員をリラックスさせるように心がけている。
船員は、一人よりもグループで質問される方が安心することもある。私が彼らにお願いしているのは、正直に話してほしいということと、求められている答えを出そうとしないでほしいということだ。
おもしろいのは、査察を開始した時点では、彼らは我々を非常に警戒しているのだが、1日目が終了し、話し慣れてくると、自分たちから我々に近づいて来て、一言言わせてくれと言い出すことだ。部屋のドアの下に匿名のメモが挟まれていたこともある。ここで一つ忠告しておきたいことは、気を付けていないと、査察は船員たちの愚痴を聞く場になってしまうということだ。彼らは食事(meal)、メール(mail)、賃金(money)の3つのMについて不満を述べるのが非常に上手い。しかし、我々の任務はMLCを履行させることであり、彼らの代わりに賃上げ交渉をすることではない。
食事の質が低い、安全設備が整っていない、賃金協約が遵守されていない等、船員の話を聞いて判明する、MLC違反の多くは、MLCの実施規定のおかげで、是正されてきた。その他の問題については、MLCの要件に照らし合わせて、さらに調査をしていかなければならない。例えば、近距離航海が多く、寄港頻度の高い内航船の場合、船員の労働時間や休息時間に影響が及ぶ。実際、これらの船舶の査察によって、乗組員が休息時間を適切に確保できていないことが判明した。そして、MLCのおかげで、これらの近距離航海期間中に船員が追加的に配乗されることとなった。これらはMLC発効の成果のほんの一例に過ぎない。
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言葉を行動に

海上労働条約(MLC)の発効から二日後、未払い賃金の獲得と約束されていた雇用契約の履行のためにMLCが活用された。カナダのITFコーディネーター、ピーター・ラヘイが報告する。

2013年8月22日、MLCの規定の下で実施された世界初の船舶拘留を目の当たりにした。ハイドラ・ウォーリアー号は、賃金未払いや違法な雇用契約、安全管理システム適合証書違反で、カナダ運輸局のPSCによってセプト・アイルス港で拘留された。その後、乗組員が未払い賃金を全額受け取り、雇用契約が適切な形に修正された後、拘留は解除された。

乗組員は乗船直後から度重なる苦痛を経験していた。多くの船主が、適正な医療・食料の提供、衛生状態の確保、雇用期間終了時の本国送還を実施していない。賃金や時間外手当の未払い、深刻な虐待も頻繁に発生している。それが、ITFや私の組合を含むITF加盟組織が、船員に連帯し、FOCキャンペーンを実施している理由である。我々の目的は、船主責任を確実に果たさせ、グローバルな経済にとって欠くことのできない船員の労働条件を改善することである。
ハイドラ・ウォーリー号のケースは、船主が団体協約の締結を選択しながら、協約を無視して、安い賃金を支払おうとしたものである。実際、協約の規定を下回る賃金の雇用契約を乗組員にサインさせていた。
MLC発効前の8月初旬、ドイツのITFインスペクター、スベン・ヘンムは、未払い賃金の回収に向けて、対策を取り始めていた。しかし、問題が解決する前に、本船はセプト・アイルスに向けて出港してしまった。本船が大西洋を横断している最中に、MLCが発効、本船がセプト・アイルスに到る前に、カナダのPSCに連絡を取り、状況を説明することができた。本船の入港後、PSCが本船を検査、MLC違反と判断した。問題が是正されるまで拘留は当然とされるほど、違反は深刻だった。
乗組員に適正な賃金が支払われ(およそ6万5千ドル)、雇用契約が改定され、問題が全て解決するまでに長い時間はかからなかった。
MLCは、船員の労働代表にとって、外航船に適切な労働条件を確保させるための強力な手段となっている。別の船で同様の問題を解決する際、私に協力しないと、バンクーバーのPSCの全面的な労働監査を受けることになると、MLCを活用しながら船主を説得することができた。MLCの意図はまさにここにある。船員の労働条件を素早く、効果的に監視し、問題を直ちに是正することを可能にする。
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デンマークでの拘留

ITFインスペクターのモーテン・バッハが、MLCを馬鹿にしたために、デンマークで拘留された最初の船について報告する。

2013年9月2日、入港前に一等航海士から連絡を受けていたアトランティック・キャリアー号(リベリア籍)をエスビャウ港で訪船した。乗組員18人(その多くはクロアチア人)に雇用契約書が発給されておらず、本船にはITF協約が締結されていなかった。本船は定期的にデンマークに寄港していたので、船主には以前から連絡をしていたが、返事はなかった。ドイツ人船長は横柄で、何事にも否定的だった。ITFと話し合うことも拒否し、乗組員にもそうするように命じていた。
船籍にかかわらず、全ての船舶の船員に最低限の権利を保証するMLCに本船が従っていないことを船長に対して明らかにした。MLCは入港国の検査官によって履行される。本件は、デンマーク海事局が任命する検査官がその役割を果たす。
MLCの規定によると、違反に気づいた人は誰でも(乗組員、港湾労働者、団体、港湾牧師を含む)、PSCに報告できる。報告を受けた海事当局は、状況を調査するために船舶に乗り込む義務を負い、場合によっては、出向停止命令を出すことができる。
アトランティック・キャリアー号は、PSCの訪船、検査を受けた後、雇用契約を新たに作成し、承認を受けるまで、エスビャウ港に24時間、拘留された。これは、MLC違反で船舶が拘留されるに至ったデンマークで初のケースだった。
幸い、ほとんどの船主が所有船にMLCの規定要件を満たさせ、適合証書を保持させている。しかし、要件に従っていない船主も依然として多い。特に、便宜置籍船がそうである。
デンマークにITFが存在する限り、規定に従わない船主を当局に報告し、当局にその任務をしっかりと果たしてもらう。
一方、MLCがITF協約あるいはその他の協約の締結を意味するわけではないことに注意すべきだ。ITFは引き続き、FOC船主にITF協約の締結を要求していく。デンマークの港に入ることを望むなら、乗組員に適正な賃金と労働条件を保障しなければならないのは、当然のことだ。
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一目で分かるILO海上労働条約(MLC)

MLCが保障する権利
安全で安定した職場
公正な雇用条件
ディーセントな(人間らしい)生活・労働条件
社会保護:医療、ヘルスケア、福祉へのアクセス
結社の自由:自ら選んだ労働組合への加入
自分の代わりに労働組合に団体協約を締結してもらうこと

権利が尊重されない場合は?
船内で、上司、船長、船主、あるいは旗国に不服を申し立てることができる。
船主に問題がある場合は、旗国または入港国に訴えることもできる。
船内で不服申し立てを行う場合、代表者または仲間の船員と同道し、かつ不服申し立てによって不当な扱いを受けない権利を有する。
PSC検査官や労働査察官にも不服申し立てができる。
自身で直接、不服申し立てをする必要はない。誰か(ITFインスペクターや福利団体)が代わりに行うこともできる。


MLCの詳細はwww.itfseafarers.org/ILOMLC.cfm
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