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グローバルユニオン
No.28/2014
■業界の動向
 
目に見えない海という空間

3回の航海を経て、作家のローズ・ジョージは、奇妙で強烈な商船上の生活に魅了されるとともに、憂鬱な気持ちにもなった。この世のあらゆる物の9割が商船によって運ばれているが、その存在を認識している者は殆どいないからだ。

大胆で粘り強くて勇敢。これらは全てラジオのインタビュー番組や書評の中で最近、私を描写するために使われている言葉だが、苦笑せざるを得ない。注目されることも感謝されることも殆どなく、またその「勇気」を賞賛されることも全くない何千人もの船員が毎日やっていることをやっただけだからだ。私は単にコンテナ船で航海しただけだ。
それは2010年のことだった。Kクラスで約7,000TEUの積載能力を持つマースク・ケンダル号は、ソマリア海賊の頻出海域を直接通り抜け、英国からアジアまでいつもの航路を進んだ。本船の乾舷は非常に高いので、海賊の引っ掛けフックやはしごも届かないだろうと見なされた。無理をすれば(また予算が許せば)、23ノットの高速スピードを出すこともできた。船長は経験42年のベテランで、私は彼を信頼していた。スエズ運河を抜け、丸一日南へ進んで海賊当直を始めた時、ますます船長に対する信頼感が高まり、私はしみじみと、自分は一体全体何を考えていたのかと思った。船長の言葉を借りるなら、「海賊頻出海域を通過したいって?気でも狂ったのか?」ということだ。
私は、過去ではなく、現代の船員の生活の実態を探る本を書きたくて、コンテナ船を選んだ。多分、以前にも1999年の真冬に、タイタニック号の航路をたどり、10日間で大西洋を横断するコンテナ船に乗ったことがあったからかもしれない。天候はひどかったが、魅惑的な経験だった。
私は、ジャーナリスト兼作家としてたくさんの未知の場所を旅した経験をもつ。サダム・フセインの誕生パーティーには2回出席しているし、NATO侵攻の6ヵ月後にアフガニスタンの美容院で女性たちにインタビューしたこともある。コソボでたった一日だけ(それで十分だったが)、従軍記者も務めたことがある。けれど、モントリオールのシュガー埠頭でカンマー・プライド号を下船した後、自分がそれまでの10日間を過ごした場所は、これまでに訪れた中で最も奇妙かつ魅惑的な場所であったことを痛感した。目に見えない、忘れ去られた海の空間で時を過ごしたからだ。
目に見えないことには、理由がある。今日では、大抵の人が行きたい場所へは飛行機か自動車で行く。海は飛行地図の上では青いしずくに過ぎず、飛び越えるだけのものだ。船は巨大なため、住宅地から離れた巨大な港を使う。港は保安上の理由から立ち入りが自由にできない。英国では、商船隊の規模が劇的に縮小してしまい、今やほとんどの人が実際に船員として働いている人間に会ったことがない。私自身も取材のために船に乗るまで船員に会ったことがなかった。
三冊目の本を書くことになった時、私は少なくとも2年間(結局、この本には4年かかったが)は興味を持ち続けられるテーマを探し、海運を選んだ。手始めに海に戻ろうと思ったが、同時に、船はさらに巨大化し、あらゆる物の9割がたが船で運ばれ、海運への依存度が高まっているにも関わらず、世間一般が海運に対して抱くイメージがほぼ消えてなくなるまでに萎んでしまったのは何故なのかも知りたいと思った。
そこで私は、6月のある金曜日にフェリックストーから乗船し、9,288海里離れたシンガポールでしぶしぶ下船した。船上で退屈するということは全くなかった。海賊当直中は別として、時間をつぶす方法はいくらでもあった。朝は、船首楼上のお気に入りの場所まで甲板を散歩した。毎日、船長にインタビューした。船長の42年の経歴は、ほぼそのままコンテナ化の歴史になぞらえることができ、彼は大好きな船員の仕事が原形をとどめなくなるほど変化するのを目の当たりにしてきた。昼食の後は読書をするか、ジムに行った。その後の何時間かは船橋にいて、ただ耳を傾け、観察していた。夕食後は、すごろくをやり、その後は静寂な時間となった。
船に乗って最も驚いたことは何か、とよく聞かれる。大抵の場合、「インターネットがないこと」と答える。船員は何ヵ月も基本的な通信手段なしで過ごしている。ネットサーフィン、携帯メール、スカイプなど、今時、5歳児すら当たり前と思っているものがない。しかし、もう一つ私が驚いたのは、グループ活動が無いということだった。ケンダル号では殆ど楽しい活動が行われなかった。その頃までにはマースクの船は全て乾貨船になっていたが、気持ちはわかるが、これは船員の間では不評だった。家庭用ゲーム機のWiiやカラオケ、低いブーンという唸り声をあげる冷凍庫のすぐ前には哀れなバーベキュー器具すらあったが、乗組員は夕方になると自分の船室に引きこもったままだった。打ち解けておしゃべりすることは最小限だったし、夕方は静かで、最も寂しい時間だった。ほとんどの乗組員が食事を取るのにどのくらいの時間が掛かるのか計ったら、6分だった。
その後、私は海賊対策の軍艦上で10日間を過ごした。違いは著しかった。非常に小さい船だったというだけでなく、乗組員が約千人もいた。しかし海軍は、適度な社交があってこそ、船員が健全でいられるということをよく理解していた。グループ活動やパーティー、バーなどが用意され、社交の場を作る努力が絶えず行われていた。福利厚生のための予算も商船より多かった。後方業務のチーフに、食料供給予算はケンダル号のように船員1人当たり一日7ドルなのかと尋ねたら、大声で笑われた。この船では、栄養のある食べ物には絶大な価値が置かれていた。
ケンダル号は素敵な船だった。船齢は、たったの4年だった。マースクは優れた企業だ。けれど、現代の船員の生活の問題を二つだけ挙げるとすれば、船員の疲労と孤独が船や会社に留まらず、より広く広がっていることがある。これはある程度、近代海運とその猛烈なペースの特質だろう。ほとんどの船員が、運が良くても2〜3時間しか上陸できない。それでも、海運産業は「人間的側面」の重要性について論じ続けているが、それがいかに非人間的に聞こえるかに気付かない。そしてそれはそのまま、使い捨てにされ、搾取されることが余りに多いか、少なくとも退屈し切って、疲れ切っている船員の海運産業での立ち位置に通じている。
私はケンダル号で楽しい時間を過ごし、下船したいとは思わなかった。しかし、航海も終わりに近づいてきた時、私は船長にこの航海は楽しかったかと尋ねた。すると彼は「どうだろうね、誰もこの船にいたいとは思っていないよ」と答えた。他の産業で働くのも大変なことは知っている。しかし、鉱夫でさえ、一日の終わりには家に帰れる。油田を掘削している労働者でさえ、たいていの船員よりもインターネットにアクセスできる。多分テレビも見られる。
私はできるならまた船に乗りたいと思うが、それは船員になりたいという意味ではない。それでも、職員候補生がくれた手紙には、最初の航海を楽しみにしている、と書いてあった。彼らがどのくらい船員の仕事を続けられるのか分からないが、どうか続けて欲しいと願う。ほとんど報われることもなく、また顧みられることもなく、この地球上で最も危険な仕事を続けてくれる船員に、私たちの生活が依存しているからだ。海運産業の成長を望むのなら(海運は近い将来、年間2パーセント伸びると推測されている)、船員という仕事を辛抱しなければならないものではなく、楽しむことができるものにするため、船の生活をいかに改善できるか、海運界は考える必要がある。
「遠洋と外洋への航海:海運産業の内幕、あらゆる物の9割を運ぶ目に見えない産業」は、ポートベロー社(英国)が出版した。
同著の米国版は、「あらゆる物の9割:海運産業の内幕、あなたに服を着せ、あなたの車にガソリンを入れ、食卓に食べ物を運んでくれる目に見えない産業」のタイトルでメトロポリタン・ブックス(米国)から出版された。
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